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ボツ3話:棺のノッチ

作:青春詭弁

棺のノッチ

「この村に災いが迫っておる」(男性村長)

「災い?」(ノッチ)

「古い時代の悪魔が長き眠りから目覚め、災厄をもたらすという言い伝えがある。そして、その言い伝え通りであれば―」(村長)

「あれば?」

「今宵、東の山の奥深く…そこに祀られている悪魔が目覚める…かもしれん」

「悪魔が祀られてるって…どういうことなんだよ?」

「大昔には、神と崇められていたそうでな。山奥には悪魔を祀る祭壇があるそうじゃ。しかし、その正体が悪魔であると知り、人々はそやつを山奥の祭壇ごと封印したとか」

「つまり、その封印が解けそうってことなのか? 解けたら、この村はどうなっちゃうんだ?」

「さてな。一応、手紙を出して外に助けは求めておるが…なにせ信憑性のないただの言い伝えじゃからな。手紙がいつ届くかも分からぬし…助けが来るとしても、はやくて半年はかかるじゃろう」

「半年って…もしもその言い伝えが本当なら、この村やばいんじゃないのか…?」

「そうじゃな。そうなれば、この村を捨て、みんなで逃げるしかないのぉ」

「でも、村長もだけど…ここにはジジババばっかりだし…みんなここを離れるってなったら、大変なことになるんじゃないか?」

「それはそうじゃが…それも運命かもしれんのぉ。ここで土地を開拓し、いちから築き上げた村…最期の時をここで過ごすのも、そんなに悪いことではないかもしれん」

「…」

「まあ、ともかくわしが言いたのは…嘘か誠か分からない言い伝えが、もし現実となった時には…若いお前さんには生き延びて欲しいということじゃ。万が一があれば、この村を出てご領主に助けを求めるといい。一応、話はつけてあるからの。悪いようにはなさらないはずじゃ」(村長)

「そんなのやだ! 俺だって、ここで生まれて、ここで育ったんだ! みんなと一緒にいる!」

「バカを言うでない。未来あるお前が命を落とすようなことがあっては…」(村長)

「いやだ!」(ノッチ)

「まったく困ったやつじゃ」(村長)

「その災厄をもたらすとかいう悪魔が悪いんだろ? だったら、俺が倒してやるぜ!」(ノッチ)

「まったく…それができないから逃げろと言っておるのだ」

「なんで初めからできないって決めつけるんだよ!」

「相手は悪魔―異形だからじゃ」

「異形って、あれだろ? 人に害をなす人ならざる存在…」

「そうじゃ。吸血鬼、ドラゴン…そして悪魔といったそれらすべて異形と呼ばれて、恐れられている。なぜか分かるか?」

「えっと、分かんない」

「はぁ…真面目に勉強せず遊んでばかりいるから…」

「うっ…い、今はそれは関係だろ!」

「よいか? 異形は人の力で倒すことなど絶対にできないのだ。吸血鬼は不死、ドラゴンに至っては人間のもつ通常の兵器では傷ひとつ付けられん」

「じゃあ、悪魔は?」

「わしも言い伝え程度にしか知らぬが…摩訶不思議な力を使うという。なにもないところから炎を生み出し、雷を迸らせる…」

「な、なんじゃそりゃ」

「ともかく、普通の人間が敵う相手ではないのだ。それができたなら、ご領収も軍を動かしてくださっただろうしな」

「…」

「よいか? 変な気を起こすでないぞ」

「…分かったよ。大人しくしてる」

「そうか。分かってくれてなによりじゃ」

「にやり」(ノッチ)

「?」(村長)

— 場面転換 —

俺の名前はノッチ。

どこにでもいる平凡な村人だ。

「えっちらおっちら」(左手にたいまつ、右手にスコップ持って山中を歩くノッチ)

「フクロウです」(フクロウさん)

「うおっ!? ふ、フクロウか…びっくろするかと思ったぜ…」(ノッチ)

今、悪魔が目覚めるという山奥まで来ている。

なんのためかって?

もちろん、悪魔を倒して村を守るためだぜ!

ただ、ちょっと勇み足だったかも…。

暗いし…これ、悪魔に会うより先に、肉食動物とかに遭遇して殺されるんじゃ…。

「い、いやいや! 弱気になるな! 俺! 悪魔を倒して、村を救うんだろ! 頑張れ俺! 負けるな俺!」(ノッチ)

そんなこんなで―。

「…ここが、悪魔の祀られてる洞窟か?」(ノッチ)

いかにもな雰囲気の場所だ。

「ごくり」(ノッチ)

よし、いくか。

・・・

「…」(祭壇の奥で眠っているサタナシス)

「!」(ノッチ)

あれが悪魔…!

た、たしかに…人間と違う部分もあるけど…思ったよりも人間っぽいな。

少なくとも顔も人間の女性のまんまだし、手足もあるし…。

人間と違うところといえば、角とか背中の羽と尻尾くらいなものだ。

「これが…災厄をもたらす悪魔…」(ノッチ)

「誰だ」(目覚めたサタナシス)

「!」(ノッチ)

目覚めた!

「お、俺の名前はノッチ! 災厄をもたらす悪魔め! この俺が倒してやるぜ!」(ノッチ)

「ふわぁぁぁ…ふむ…? 人間? 人間如きが何用だ」(眠そうなサタナシス)

「だから! お前を倒しにきたんだ!」

「はあぁあぁああぁあぁあぁ」

「え、くそでか溜息じゃん」

「なーんで長い眠りから目覚めたと思ったら、人間のクソガキに因縁を吹っ掛けられなければならんんだ。くそ面倒くさい…人間如き私に構うな。出ていけ」(親父みたいな感じで祭壇の上で横になりながらしっしっと鬱陶しそうにしているサタナシス)

「な、なんだとぉ!? いいから正々堂々と戦えよ!」(ノッチ)

「ふわぁ…とりあえず、私二度寝したいから…静かにしてくれ…眠い…」

「…」

「Zzz」(サタナシス)

寝やがった!

災厄をもたらす悪魔が二度寝しやがった!

「なめやがって!」(ノッチ)

はっ!? 今なら寝込みを襲うチャンスでは!?

「…」(スコップを握りしめるノッチ)

「Zzz」(サタナシス)

・・・

・・・

「ふわぁ…よく寝たぁ…おや?」(起きたサタナシス)

「Zzz」(スコップを抱いて寝ているノッチ)

「…おい、人間。起きろ」(サタナシス)

「はっ!? 寝てないが!?」

「いや、寝てただろ」

「寝てないが!?」

「…なにをしている? 出ていけと言っただろ」

「こっちこそ言ったはずだ! お前を倒しにきたってな! だから、わざわざお前が起きるまで、ここでずっと待ってやってたんだからな! 感謝しろよ!」

「…寝込みを襲えばよかっただろう」

「それはちょっと卑怯かなって思ったんだ」

「はぁ…?」

「相手が悪魔だろうがなんだろうが、正々堂々と正面から勝負しなきゃな! 俺はずるとか、そういうの大嫌いなんだよ!」

「律儀というか…お前バカだろ」

「なんだとぉ!? バカが言った方がバカなんだからな!」(バカ)

「うるさい、ばーか」

「かっちーん。そっちがバカだろ! ばーかばーか!」

「こ、このクソガキ…! お前の方がバカだ!」

「そっちの方がバカだ!」

・・・

30分後。

「やめよう」(サタナシス)

「そうしよう…」(ノッチ)

「この私が人間のクソガキと低レベルな口喧嘩をする日が来るなんて…情けない…」(サタナシス)

「む! クソガキクソガキって! 俺にはノッチって名前があるんだ!」

「人間如きの名前など、覚えるに値しない。お前なんてクソガキで十分だ」

「おっと、また俺と口喧嘩をしたいようだなクソ悪魔め!」

「く、クソ悪魔…? なめた口をきくのも大概にしろよ…? 私のけっして少なくない忍耐にも限度があるぞ?」

「でも、クソ悪魔以外になんて呼べばいいんだよ?」

「…サタナシス。それが私の名前だ」

「サタナシス…」

「光栄に思えよ。私自ら名を名乗るなんて、めったにないのだから」

「なんか長いし、なっちゃんでいいか?」

「んなっ!?」

「よし、それじゃあなっちゃん! 俺と正々堂々勝負だ!」

「なっちゃんなどと馴れ馴れしいあだ名なんてつけるな! 私の名前はサタナシスだ! というか、せめて”さっちゃん”だろう!?」

「細かいこと気にすなよ、悪魔が」

「これだから人間は嫌いなんだ! このクソガキめ!」

「よし、分かった。俺のことを名前で呼んでくれたら、俺もあんたのことちゃんと呼ぶ」

「むぅ…仕方ない。なっちゃんでは、かっこうがつかないからな」

「よしきた」

「…では、ノッチ。これでいいか?」

「分かった。それじゃあ、俺はさっちゃんで」

「なんでぇ…?」

「さっちゃんの方がいいって、自分で言ったんじゃん」

「サタナシスだ!」

「でも、長いんだよ」

「あーーーーもう…サタでいい」

「サタちゃん」

「ちゃん禁止」

「なんで」

「気安いだろう」

「よし! サタ! 勝負だ!」

「しない」

「なんでだ!?」

「寝起きだし、お腹も減ったし。お前ごときに構ってられるか」

「こっちは寝ずにずっと待ってやってたのに!」

「いや、ごりごり寝てただろ。ぐっすり8時間も」

「寝てないが!? ん…? ちょっと待て。8時間?」

「ああ、8時間ぐっすり。その証拠に、洞窟の入り口を見てみろ。すっかり明るくなっているだろう」

「やべっ!? 朝の水汲みと、家畜の餌やりやってねぇ…!? 母ちゃんに怒られる!?」(震えているノッチ)

「おい、なんで悪魔の私を前にしているのに、その私よりも母親に恐怖してるんだ」

「子供にとって悪魔なんかよりも母親の方が怖い存在に決まってんだろ、バカかよ」

「ええ、私そこまで言われなくちゃいけないのか…?」

「く、くそぅ…! 今日のところは大目に見てやる! 次こそ決着をつけてやるからな! サタ!」

「いや、もう来ないでくれ」

「じゃあな!」

「来るなよ? フリじゃないからな? 絶対に来るなよ?」

フリだ。

と、俺は思った。

その後―。

「あんた!! 仕事もせずどこほっつき歩いていたんだい!?」(母親)

「ひええぇぇぇ」(ノッチ)

母ちゃんにしこたま怒られた。

ちなみに、他の家族はというと―。

「…」(見て見ぬふりをしている父親)

「あははは…」(苦笑している妹)

ちくしょう!

父ちゃんも妹も薄情だ!

「俺はみんなのために、昨日の夜から悪魔のところに行ってたのに! この仕打ちかよ!」(ノッチ)

「なんだって!? 昨日の夜だって!?」(母親)

「あ」

しまった。

昨日、こっそり黙って家を出たから、このこと母ちゃんは知らないんだった。

「朝からいないと思ったら、夜からだって!? このバカ息子!! なにかあったらどうするんだい!?」(母親)

「ひえぇぇぇ…!? で、でも悪魔があぁぁあ」(母親)

「悪魔って言い伝えの悪魔かな?」(父親)

「そ、そう! 村長からその話を聞いてさ! 俺、村を守りたくて悪魔がいるっていう場所まで行ってきたんだ! そしたら本当にいてさ!」(ノッチ)

「バカ! 本当にいるわけないでしょ! あんなの迷信よ!」(母親)

「いや、本当にいたんだって!」(ノッチ)

「たしかに、言い伝えではいたって話は…僕も聞いたことがあるけれど、何分大昔の話だからね。信じているのは、ずっと昔からおじいさんや、おばあさんたちくらいで…僕たちの世代となると…外から来た人も多いからねぇ」(父親)

「ええ…」(ノッチ)

つまり、信じているのは俺だけか…?

いや、ジジババたちもか…?

「なんでみんな信じないんだよ?」(ノッチ)

「うーん、結局自分の目で見たものじゃないと信じられないから…かな。危険が迫っているって言われても、それが目に見える形じゃないと、今の生活を捨てるなんてなかなか難しいだろう?」(父親)

「そんな…」(ノッチ)

でも、たしかに村長の言う通り悪魔はあそこにいたんだ。

だったら、災厄をもたらす可能性は十分あるはずだ。

「…じゃあ、自分の目で見たら信じてくれるんだよな」(ノッチ)

「?」(父親)

— 場面転換 —

それから俺は村の大人たちを連れて、昨夜訪れたサタが祀られている山奥の洞窟を目指した。

だが―。

「なにもないじゃないか」(父親)

「あるうぇ!?」(ノッチ)

なんもなかった。

・・・

「ち、ちくしょう…」(畑仕事をしているノッチ)

実際にサタのことを見れば、言い伝えが本当のことだってみんな信じてくれると思ったのに!

一体どうしてだ!

なんであそこにあったはずのサタの祭壇までなかったんだ!

「こうなったら今夜もう一度…」(ノッチ)

「あんた、またどっかいくつもりかい?」(母親)

「ひえっ」(ノッチ)

だ、ダメだ…母ちゃんが警戒している!

これじゃあこっそり家を抜け出して、サタのいるところに行けないぞ…。

「ど、どうしよう…」(ノッチ)

「…」(妹)

・・・

その日の夜。

「はい、お兄ちゃん」(妹)

「あ、ありがとう…!」(ノッチ)

妹の助けを借りて、母ちゃんの目を盗んで夜に家から抜け出すことができた。

今俺は、ベッドの上ですでにおねんねしていることになっているから、朝まで母ちゃんにバレることはない。

それまでに戻れば…だけど。

「それと、これ」(におい袋を渡す妹)

「くさっ」(鼻をつまむノッチ)

「ちゃんと獣除けのにおい袋を持っていってね? 夜はただでさえ危ないんだから」(妹)

「わ、分かった…」(ノッチ)

「気を付けてね、お兄ちゃん」

「…なあ、妹よ」

「ん?」

「お前は…俺の話、信じてくれるか?」

「うーん…半信半疑?」

「えー…」

家族の絆イズどこ。

「じゃあ、なんで協力してくれるんだよぅ」(ノッチ)

「お兄ちゃん、1度やるって決めたらなかなか諦めてくれないから…危ないっていってもぜんぜん妹の言うこと聞いてくれないんだもん」

「そうだっけか…?」

「だから、妹ができることは…少しでもお兄ちゃんが無事に帰ってこられるように準備してあげることだけ」

「…ありがとな」

「お礼はいいから、絶対帰ってきてよね?」

「おう!」

・・・

そうして今夜もサタのもとへと俺は向かって―。

「もしゃりもしゃり」(木の実食べてるサタナシス)

「なんでぇ…?」(ノッチ)

普通にいた。

「げっ…また来たのか」(いやそうなサタナシス)

「お、お前! 昼間は祭壇ごとどこに行ってたんだ!?」(ノッチ)

「ああ、昼間な…お前が大人を連れてきたのに気づいてな。バレたら面倒だと思い、幻惑の術で隠していた」

「げ、幻惑の術…?」

「ほら、この通り」(幻惑で姿を隠すサタナシス)

「き、消えた!?」

「はっはっは! 大人たちから嘘つき扱いされていたお前は、とても愉快だったぞ! ざまぁあぁぁぁあぁぁ」(再び姿を現すサタナシス)

「かっちーん」(ノッチ)

「あれで昨夜のことは幻だったと思い込んでくれればよかったのだが…諦めの悪い人間だ…」

「こ、このクソ悪魔め…」

しかし、これが悪魔が使う摩訶不思議な力なのか…厄介な。

「ふんっ! もう大人なんかに頼らない! 俺がお前をここで倒せばいいんだから!」

「今食事中だし、そういう気分じゃないから」

「え? あ、そう…? じゃあ、出直そうかなぁ」

「素直」

「まあ、今日のところは妹も俺の帰りを待っているから見逃してやるけど、また来るからな!」

「来るな。いや、マジで」

・・・

それからというもの―。

「…」(サタのところを訪れたノッチ)

しーん。(なにもない洞窟

「たのもー!!」(ノッチ)

しーん。

「いるのは分かってるんだぞー! 姿を現せー!!」(ノッチ)

しーん。

「居留守か…居留守つもりか。そうですか…なら、こうするしかないな」(オタマと鍋を手に取るノッチ)

かんかんかんかんかんかんかん。(洞窟内にヒビキ渡る甲高い音

「ぎゃああああああああ」(耳が死亡したサタナシス)

「あ、幻惑の術が解けた」(ノッチ)

「バカか…お前…こんな洞窟で…」(サタナシス)

「これから居留守を使った場合は、これを使います」

「勘弁してくれ」

俺は毎日のようにサタのもとへ通い続けた。

「さあ、正々堂々と戦え!」(ノッチ)

「やらん。面倒くさい」(だるそうなサタ)

しかし、何度訪れてもサタは相手をしてくれない。

サタは面倒くさがりらしい。

「お腹減ったからご飯を持ってきてくれないか」(サタ)

「なんで俺が」(ノッチ)

「持ってきてくれたら…勝負してやってもいいかもなぁ…」(サタ)

「よっしゃ! 任せろ!」

「ふっ…ちょろいな」

なんかいつのまにかサタの飯係をさせられていたりとか…。

「食べさせてくれ」(サタ)

「なんで俺が」(ノッチ)

「食べさせてくれたら勝負する」

「任せろ!」

「心配になるくらいちょろい」

気づけば”あーん”もしてやっていた自分に驚いた。

それでもサタは俺と勝負をしてくれない。

「また来るぞ!」(帰宅するノッチ)

「ふんっ。勝手にしろ」(サタナシス)

サタも諦めたみたいで、もう来るなとは言わなくなった。

そうしてサタのもとへ通うこと半年が経ち―。

「へくちっ」(家で寝込んでいるノッチ)

「お兄ちゃん、大丈夫…?」(妹)

「へくちっへくちっ」(ノッチ)

「ただの風邪だと思うけれど、一応しばらくはちゃんと安静にしておきなさいよね?」(母親)

「少しでも体調に変化があったらすぐに言うんだよ? お医者様を呼んでくるからね」(父親)

「そこまでは…いらない…へくちっ」(ノッチ)

俺は体調を崩した。

残念ながら医者は近くの街まで行かないといないから、正確なところは分からないが、多分ただの風邪だ。

これじゃあ治るまではサタのところいけないなぁ…。

村のために、はやくあいつを倒さなきゃなのに…。

「へくちっへくちっ」(ノッチ)

「お兄ちゃん、無理しないでね?」(妹)

「うぅぅぅ」(ノッチ)

ちくしょう…へくちっ。

— 場面転換 —

(サタ視点)

「んー」(そこら辺をうろうろしているサタナシス)

・・・

「来ない」(そこら辺をうろうろするサタナシス)

・・・

「ぜんぜん来ない」(サタナシス)

また来ると言っていたのに…。

今まで毎日毎日、来るなと言っていても私のところに来ていたのに。

「むぅ」(サタナシス)

嘘つきめ。

— 場面転換 —

(ノッチ視点)

「治ったンゴ」(ノッチ)

よっしゃ!

1週間も空いてしまったが、今日こそサタを倒してやるぜ!

「やい! サタ! 今日こそ俺と正々堂々勝負をしろ!」(ノッチ)

「つーん」(いじけているサタ)

「なにしてんだ、お前」

「…また来るって言ってたのに、1週間も私を放っておくなんて」

「え?」

「またすぐ来るって言ってたじゃん…嘘つき」

「ええ…」

なんか久しぶりに会ったら、災厄をもたらす悪魔がめっちゃいじけてた。

「悪かったよ! ほら、今日も畑で取れた野菜を持ってきたぞ! 採れたてだぞ!」(ノッチ)

「つーん」(サタ)

「つーんと言いながらつーんとしている」

すっかりいじけてしまったようだ。

面倒な悪魔だなぁ…。

「なあ、サタ」(ノッチ)

「うるさい、あっち行け。ばーかばーか」(そっぽ向いているサタ)

「…はぁ」(ノッチ)

今日はダメだな。

仕方ない。

「分かったよ。今日のところは大人しく帰るよ。野菜、置いていくからさ。これ食べたら、機嫌直してくれよな」(ノッチ)

「つーん」(サタ)

やれやれ。

・・・

「えっちらおっちら」(帰路を歩いているノッチ)

せっかく1週間ぶりだってのに。

あんなへそ曲げるとはなぁ。

寂しかったのだろうか?

ずいぶんと寂しがり屋な悪魔もいたもんだ。

「…でもまあ、長い間…1人きりだったんだもんなぁ」(ノッチ)

この半年、サタのところに通い続けて、結構打ち解けたもんな。

災厄をもたらす悪魔となに仲良くなってるんだって話だが…でも、俺は…。

「ずざざざざざざざ」(棺を引きずるフェル)

「ん?」(ノッチ)

「ずざざざざざざ」(棺を引きずるフェル)

「ん~~~~??????」(ノッチ)

見間違いかな?

なんかシスター服を着た小さな女の子が、棺桶を引きずっているように見えるんだけど…。

「あん? なに見てんだよ、クソガキ」(めっちゃ柄悪いフェル)

「え、柄わるっ」(ノッチ)

「初対面でクソ失礼なガキだな」

ガキにガキと言われた。

「っすー…ふー」(葉巻を吸うフェル)

どう見てもこいつの方がクソガキである。

「おいおい、ちっちゃな子供がそんなもん吸っちゃめーっでしょー」(ノッチ)

「あん? てめぇ…あたしをガキだと思ってんのか。これでもあたしは、てめぇよりも年上なんだよ、クソが。なめんな」(中指立てるフェル)

「あーはいはい」

背伸びしたい時期ってあるよね。

「まあ、他所のうちの子がどうしようが別にいいけどよ…葉巻って体に悪いんだろう? 若いうちから手を出すもんじゃないって、うちのジジババ連中も言ってたぞ?」(ノッチ)

「だから! あたしは立派な大人だ! ちっちゃい子扱いすんな! あとこいつはただの葉巻じゃねぇ。普通の人間が吸う分には、無害だ」(フェル)

「あのな? 若い頃から、こんなもん吸っちゃダメなんだぞ?」

「聞けよ」

まったく最近の若い子はぁ!

「まあ、他所の家の子にとやかく言わないけどさぁ…? ほどほどにしておけよ?」

「このガキ…あたしのことをとことん子供扱いしやがって…」(もう1本葉巻を吸うフェル)

「またすぐ吸う…さっき吸ってたばっかりなのに。そんなんじゃ、すぐ体壊すぞ?」

「いいんだよ、あたしは。こいつがあたしをあたしたらしめる…こいつのおかげで、あたしは正気をたもっていられるんだ」

「なに言ってるんだ…?」

「んなことより、てめぇ…この近くの村のもんか?」(棺に座るフェル)

「そうだけど?」(ノッチ)

「じゃあ、山奥にある洞窟がどこにあるか知ってるか?」

「山奥の洞窟?」

「悪魔が祀られてるっつー場所だ。ちと道に迷ってな」

それって、サタの?

この子、シスター服なんて着てるけど…一体なんの目的で…?

うーん…理由は分かんないけど、子供が1人で山奥なんて危ないし…。

「あっちの方を道なりに進め」(ノッチ)

「おう、そうか。助かるぜ」(フェル)

嘘である。

そのまま進むと山間の街に辿り着くだけで、サタの場所には辿り着けない。

「んじゃ、先を急いでるんでな」(フェル)

「なあ、ずっと気になってるだけど…それなんなんだ?」(棺に目を向けるノッチ)

「そいつは棺だ」

「棺ってことは…中に…は、入ってるのか?」

「まあな」(にやりするフェル)

「ひえぇぇー…なんだってこんなもんを…あ」(棺に近寄ろうとしてつまづくノッチ)

「!?」(フェル)

「おっとっと…危ない危ない」(棺に手をついて転倒を防ぐノッチ)

「バカ。離れろ!」(ノッチを棺から片手で引きはがすフェル)

「のわっ!?」(ものすごい力で引っ張られて尻もちをつくノッチ)

「ったく、大丈夫か?」(フェル)

「お尻が痛い…」(ノッチ)

というか、なんだ今の力…?

こんな小さいのに、すごい力だったな。

いや、よく考えたらこの棺を1人で引きずって歩いてた時点で、おかしいって気づくべきだった…。

なんか見た目が小さな女の子だったから、その異常性をすっかり見下ろしていた。

「悪かった…つまづいたとはいえ、棺に軽々しく触るもんじゃないよな…」(ノッチ)

「それは別にいい。なんともねぇか」(フェル)

「だから、お尻が痛いって…」

「そういうんじゃねぇ。なんか力が抜けるとか、いやなこと思い出すとか、怒りがこみあげてくるとかな、気分が悪いとかねぇか?」

「はい? 別にないけど…なんの心配なのそれ?」

「…なんともねぇのか。驚いたな」

「???」

「いや、なんともねぇならそれでいい。ただまあ、一応1本吸っとけ」(葉巻を渡すフェル)

「いや、俺吸わないから」(ノッチ)

「いいから吸っとけ」(フェル)

なんか無理矢理押し付けられてしまった。

いらねぇ…。

「今度じゃあな。ちゃんと吸っとけよ」(立ち去るフェル)

行っちゃった。

「不思議な子だったなぁ」(ノッチ)

不思議というか、おかしな子…か。

結局、なんであんなもん引きずってたのやら…。

しかも、あの怪力も…。

「あ」(ノッチ)

そういえば、道の途中に沼地があるから足をとられないよう気をつけろって言いそびれた。

「まあ、大丈夫か」(ノッチ)

謎は残ったまま―俺は再び帰路に戻ることになるが、その後すぐ彼女の正体が分かった。

「え? 教会の狩人?」(ノッチ)

「うん、狩人様が来てくださったみたい!」(妹)

帰宅後、家族にあのおかしな女の子の話をしたところ、その正体が教会の狩人であることが判明した。

「えっと、教会の狩人ってたしか…」(ノッチ)

「人に害をなす異形を狩るため、教会から派遣され、異形狩るシスターさんのことだな。平時はシスターとして働いているが、異形絡みの事件があると、こうして遠路はるばる駆けつけて、異形を狩ってくれるんだ」(父)

「でも、まさか教会の狩人様が来るなんてねぇ…村長もおおげさじゃないかしら?」(母)

「まあ、備えあれば憂いなしってね。これで本当に災厄をもたらす悪魔がいたとしても安心だろう?」(父)

「ふふ、まあそうね」(母)

「…」(ノッチ)

「あはは、残念だったね、お兄ちゃん? 自分で倒したがってたのに」(小声な妹)

「…」(ノッチ)

「お兄ちゃん? どうかしたの?」(妹)

「ちょっと…外の空気吸ってくる」(ノッチ)

「う、うん? 行ってらっしゃい?」(妹)

まさかあんな小さい子が異形狩りのために派遣された教会の狩人だったなんて。

でも、それならあの怪力も頷ける。

教会の狩人は、人ならざる異形を狩るためそれぞれが人外の力を持っているそうだ。

「サタ、大丈夫かなぁ…?」(ノッチ)

— 場面転換 —

サタと出会ってから半年。

毎日、あいつのもとに通い続けて…案外悪いやつじゃないと思った。

「ぐでーん」(だらけているサタ)

「やい! 今日こそ俺と勝負しろや!」(ノッチ)

「だるっ」

まあ、そもそも普段の姿からしてだからけきっていたり、面倒くさがりだったりで、悪魔っぽくないというかなんというか。

「お前、本当に悪魔なのか」(ノッチ)

なんて思うこともあった。

「失敬な。ちゃんと悪魔だ」(サタ)

「じゃあ、悪魔らしいことをしてくれよ」(ノッチ)

「えーだるっ」

「というか、そもそも悪魔ってなんなんだ?」

「代償を支払えば、どんな願いでも叶えることができる」

「マジで!? すげぇじゃん!?」(ノッチ)

「ただ、多くの場合は自らの願いを叶える代わりに、大切なものを失うことになる」

「大切なもの…?」

「たとえば、永遠の命を願うとしよう。その場合、代償として五感を失うとか」

「五感を…? なんで?」

「永遠に生きられるのに、なにも見ることができず、聞くこともできず、味わうこともできず、嗅ぐこともできず…なにも感じられることができない暗闇で生き続ける。永遠の命を願っておきながら、実際は死んでいるのと変わらない生きた屍となるわけだな。悪魔はそういう滑稽な姿となった人間を見るのが好きなやつが多いんだ」

「性格わるっ」

「私もそう思う」

「でも、今の話を聞くと代償って悪魔の匙加減で決められるのか? だったら、めちゃくちゃ代償を軽くしてもらうことができたりするのかな? なんなら、代償をなしにしてもらえたり?」

「悪魔の使う術には、等価交換の原則がある。叶える願いに釣り合う代償が、必ず必要なんだ。もし、その原則を破ったら…不足している分の代償を悪魔自身が支払うことになる。だから、多くの悪魔はそんなことしないな」

「じゃあ、悪魔に願いを叶えてもらわない方がいいってことだな」

「まあ、そもそも他力本願なやつの方が悪いと思うぞ。本当に叶えたい願いは、ちゃんと自分で叶えるようになー」

「言われなくてもそうするよ」

「ならいいんだ」(ノッチの頭をなでてやるサタ)

「気安く触るな。髪型が崩れるだろ」

「…」

「…でも、それを分かっていても悪魔に願いを叶えてもらおうとする人がいるんだよな」

「そうだな。それだけ、なんでも願いを叶えられる…というのが魅力的なんだろう。人間は楽をしたがる生き物だからな。本当に…救いようがない」

「サタ…?」

・・・

サタのことを悪いやつじゃないと思うようになったきっかけは、妹が病で倒れた時の出来事だ。

「病状は重い…街からお医者様が来る前に、もしかすると…」(男性)

「そんな…」(ノッチ)

「うぅ…」(具合が悪そうな妹)

突然の病で、妹の命が危ないという

そこで俺は悪魔の取引について思い出した。

「妹を救ってくれ…!」(ノッチ)

「お前…悪魔の取引については教えただろう」(サタ)

「分かってる! 代償は俺が払う! だから、妹を…! どうか…!」(ノッチ)

「…それがどんな代償でもか」

「どんな代償でも」

「そうか」

「ちなみに、どんな代償にするんだ」(怖くて震えているノッチ)

「怖いなら最初から私を頼ろうとするな…」

「そりゃ怖いけど、妹のためなら…引くわけにはいかねぇ」

「…分かった。なら、改めて―私の前で願いを口にせよ」(サタ)

「病で倒れている妹を救いたい」

「代償は」

「俺が払う」

「よろしい。取引成立だ」

「!」

そして、妹は救われた。

ちなみに俺が支払った代償はというと―。

「え? この先、夜しか眠れなくなることが俺の代償?」

「そうだ」

「健康的じゃん」

「ばっかお前。夜しか眠れないんだぞ? 昼寝できないんだぞ? 辛いだろう?」

「俺をお前みたいなぐーたら悪魔と一緒にするな」

「ええ…?」

なんかめっちゃみみっちぃ代償で済んだ。

「…それだけなのか?」

「なんだ? なにか問題か?」

「てっきり、もっと性格の悪い代償を支払うことになるんじゃないかと思ってたんだけど…」

「叶える代償に釣り合うなら、代償は悪魔の匙加減だからな。私はそういう代償を好まないというだけだ」

「…」

「なんだ?」

「お前、いいやつなのか?」

「バカを言え。悪魔は悪いやつに決まっているだろう?」

「…」

でも、俺には悪いやつに見えなかった。

「なんでお前、災厄をもたらすなんて言われてるんだ?」(ノッチ)

「教会のでっちあげた嘘だ」(サタ)

「教会の?」

「今でこそ世界中で信仰されている教会の教えだが、大昔にはまだ教会なんてなかった時代がある。その時代、一部の異形を人間は神として崇めてた」

「もしかして、サタも神様だったのか?」

「まあ、そういう時期もあったな。だが、ある時から教会ができて…教会の崇める唯一神以外のすべては異端の神…異形となった。私もそれは例外ではない。そうして、私は災厄をもたらす悪魔として教会のお尋ね者となったわけだが…これでも私はそこそこ強い悪魔でな。教会は私をここに封じ込めるしかなかった」

「ここに…?」

「ここはかつての私が人間たちに崇め奉られていた場所だ。私はいつものように、ここで人の願いを叶えていた…しかし、その人間たちは教会に言いくるめられたのか、私を裏切り…ここに封じた」

「…」

「まあ、そんなわけで…私は災厄をもたらす悪魔などと言われているわけだ」

「ひどい…話だな」

「異形に同情か?」

「そんなんじゃない! ただ、俺は…正々堂々じゃないことが嫌いなだけだ。そんなだまし討ちみたいなこと…」

「ほとほと変わったやつだ…人間は嫌いだが、お前はまあ…そんなに嫌いじゃない…」

「?」

・・・

・・・

それからもサタは村で困ったことがあったら、時折力を貸してくれた。

代償は採れたての野菜だったりいろいろだが、たいした代償を支払うことはなかった。

妹を助けてくれて、村のために尽力してくれる。

口ではぶっきら棒だが、俺にはサタが悪いやつには見えない。

それどころか村の守り神みたにも見えている。

もはや「サタを倒す」なんて言葉は、ただの建前で…俺にとっても村にとってもサタは大切な存在だ。

「心配だし…ちょっとようすを見に行ってくるか」(ノッチ)

あと、そろそろ機嫌を直してくれるといいんだけどなぁー。

— 場面転換 —

(サタ視点)

「さっきは言い過ぎたかなぁ…」(洞窟で三角座りしているサタ)

近くの村に住んでいるただの子供―ノッチ。

昔、人間に裏切られてここに封じられた私にとって、人間なんてもうかかわりたくもない存在。

そう思っていたが…長く封印されていた私は、眠っていたというよりも暗闇の中に閉じ込められていたようなもので…つまり、長い間孤独で1人ぼっちだったというわけで…。

正直、話し相手がいるというのは、すごく嬉しかった。

最初はそれが人間だったことが癪だったが。

しかも、めっちゃ敵意むき出しだったし。

ただ、純粋な男の子だった。

素直ないい子だ。

一緒にいると、なんだか安らぐ。

だからか、次第に私はただの男の子に気を許すようになってしまった。

もう二度と人間なんかのために悪魔の術法は使わないと思っていたのに、妹を助けたいというあの子のために使ってしまったし…。

もうノッチは私にとって大切な存在なのは、否定できない。

「次にあいつが来たら…ちゃんと謝ろう!」(サタ)

うん、そうしよう。

ずざざざざざざ。(なにかを引きずる音

「む?」(サタ)

なんの音だろう?

なにかを引きずる音と…人の足音?

もしかして、ノッチか!

「ノッチ!」(嬉しそうに出迎えるサタ)

「ほう? ばちくそ道に迷ったが、どうやら当たりだったみてぇだな」(フェル)

「え?」(サタ)

だ、誰だこいつは。

というか、このかっこう―。

「あたしはフェルディナン・ボレリアーノ。てめぇを殺す者の名だ。冥土の土産に覚えておけ、クソ悪魔」(葉巻をくわえて棺を担いでいるフェル)

教会の狩人…!

「んじゃまあ、挨拶も済んだわけだし…さっそくその薄汚ねぇ五臓六腑をぶちまけろやぁあぁ!!」(喜々として鎖を振り回して棺をサタに向けてぶん投げるフェル)

「!?」(サタ)

ドーンッッ!!(暗転

「けほっけほっ…な、なんなんだあいつは…!」(洞窟から抜け出してきたサタ)

うっ…あのフェルディナンとかいうシスターの攻撃で、洞窟が崩れて…なんとか逃げ出せたけど…。

「力が…入らない…」(サタ)

なんで…普通なら人間に遅れをとることなんてありえないのに。

「おいおい、わざわざ戦いやすい場所まで移動してくれたのか? それとも、あたしから逃げられるとでも思ってんのか? クソ悪魔」(追いかけてきたフェル)

「ちぃっ」(サタ)

あのまま生き埋めにでもなってくれればよかったのに。

悪魔の術法を使えば、簡単に逃げられるはずなんだけど…なぜか能力が封じられてる。

「っすー…ふー」(葉巻を吸っているフェル)

あの棺で攻撃されたせい?

「私を前に一服なんて、ずいぶんと余裕そうだな」(サタ)

「ああ、余裕だな。どうせもうなにもできないだろ? 弱体化している今のてめぇにはな」(フェル)

見抜かれてる。

ということは、やっぱりあの棺が原因か。

どうする…どうすれば…。

「さてと…んじゃまあ、さっさとお仕事を終わらせますか」(鎖を引っ張るフェル)

「!」(サタ)

やられる…!

「ノッチ…!」(サタ)

せめて最後に会って、謝りたかった―。

・・・

・・・

— 場面転換 —

「ちょっと待ったぁ!」(サタとフェルの間に割って入るノッチ)

「あん?」(フェル)

「ノッチ!?」(サタ)

心配でようすを見に来てみたら!

なんか大きな音がして、急いで駆けつけたらサタがシスターに襲われてるじゃないか!

「てめぇは、昼間に会ったクソガキか? 道を教えてくれて助かったぜ。おかげで、クソ悪魔を見つけられたよ」(フェル)

「え…?」(サタ)

「違う違う違う違う! 誤解だ誤解だ! 山間の街に行くよう嘘ついたんだよ! むしろ、なんでこいつここに居るんだよ! 俺悪くないぞ!」(ノッチ)

「迷った」(フェル)

「そんなぁ…ノッチが教会の狩人を私のところに送り込んだなんて…うぅぅぅぅううぅぅぅぅぅぅ」(サタ)

「迷ったって言ってるよ! ねえ、聞いて! 聞いてほら! 俺がサタを陥れるようなことするわけないだろ!?」

「でも、私たち喧嘩してたしいぃぃぃぃぃ! 私のこと嫌いになったんでしょぉぉぉぉぉぉぉ????」(泣いちゃったサタ)

「なってないなってない!」(ノッチ)

「最初はさぁ…? 私たち敵対してたけどさぁ…? この半年で、なんだかんだ仲良くなれたと思ってたのは私だけなのかなぁ!?」(サタ)

「俺もそう思ってるって! 口では倒してやるっていつも言ってたけど、本当は友達みたいに思ってたよ!」(ノッチ)

「ほんと…? 嘘じゃない…?」(サタ)

「嘘じゃないよ」(ノッチ)

「…分かった。信じる」(サタ)

ふぅ…よかった。

「おいおい、どういうことだクソガキ。悪魔と友達だぁ…? それに嘘の道を教えたってぇ…? じゃあなにか? あたしは道に迷わなかったら、このクソ悪魔を見つけられなかったって…そういうことか?」(フェル)

「そういうことだ」(ノッチ)

「そういうことだばーかばーか!」(なんか威張ってるサタ)

「なんでお前が威張ってる…?」(ノッチ)

「そいつはてめぇ…つまり、悪魔の味方をしてるっつーことか?」(敵意を向けるフェル)

「うっ」(ひるむノッチ)

「そうだ! ノッチは私の味方じゃい!」(サタ)

「ちょっと黙ろうか!?」(ノッチ)

「ほわ?」(サタ)

「…」(冷や汗をかいてるノッチ)

あんまりよく考えずに飛び出してきたけど、これってものすごくまずい状況なのか…?

だって、相手は教会の狩人だ。

国が国教として認め、世界中で信仰される大きな教会―そこから異形を狩るため派遣されてきた狩人。

あいつは人の味方で、異形が人の敵。

だが、俺はそんな人の味方に歯向かっている状況なわけだ。

「つまりてめぇは…異端ってことだよなぁ? 村人の1人が悪魔を祀り上げてるとなりゃぁ…村人全員が異端だと疑われるなぁ…?」(フェル)

「!」(ノッチ)

やべぇ…!

俺のせいで、村のみんなが教会に目をつけられる…!?

「今ならまだ、見なかったことにしてやる。だから、クソガキは回れ右して、おうちに帰んな。じゃなきゃ、あたしも”仕事”をしなきゃいけなくなる」(フェル)

「!」(ノッチ)

「汚いぞ! 人質をとって脅しているようなものじゃないか! それが教会のやり方か!」(サタ)

「バカが。本来なら、てめぇらクソ異形に味方した時点で、異端として処分できるところを寛大な心で見逃してやるって言ってんだよ」(フェル)

「むむむ」(サタ)

「おい、クソガキ。少しでも周りの人間のことを考えられるならよぉ…大人しく立ち去れ。どんな言葉で、そのクソ悪魔にたぶらかされたか知らんが、悪魔なんて碌なもんじゃねぇぞ」(フェル)

「人間の方が碌でもないだろ」(サタ)

「うるせぇクソ悪魔。まあ、人間も大概クソなのは認めてやるがな」(フェル)

「ほう?」(サタ)

「いいか、クソガキ? かつて悪魔信仰をしていた地域があった。んで、そこの連中は悪魔を召喚するために、子供を生贄にしようとした。結果、失敗して…悪魔によりそこら一帯は滅んだ。他にも、悪魔による被害で、滅んだ村や街、国だってある。そいつらは、人間に似ちゃいるが…所詮化け物なんだよ。人間が手を出していい存在じゃないし、仲良く手を繋いでお友達になれる相手でもねぇ。大切なものがあるなら、ちゃんと自分で守りな」(フェル)

「…ノッチ」(サタ)

「お、俺は…」(ノッチ)

「…帰れ、ノッチ」(サタ)

「サタ…?」(ノッチ)

「大切な家族が…お前を待っているだろう? 私のために迷う必要はない」

「だ、だけど」

「それに知っているだろう? 私は強いんだ。そこら辺の人間には負けないさ!」(サタ)

「嘘つけよ」(ノッチ)

「う、嘘じゃないぞ? ノッチだって知ってるだろ? 悪魔の術法を使えば、こんな小娘はちょちょいのちょいのすけで…」

「だったら、なんでそんなボロボロなんだ」

「あぅ」

「俺は、引かない」(ノッチ)

「てめぇ、村がどうなってもいいってのか?」(フェル)

「村は大事だ」(ノッチ)

「なら、なんで」(フェル)

「サタも! 大事だから!」(ノッチ)

「!」(サタ)

「サタは家族を助けてくれた恩人だ! 恩人見捨てて、逃げ帰るわけにはいかねぇ! 村もサタもどっちも守る! あいつを一緒に倒すぞ! サタ!」(ノッチ)

「…ノッチ」(サタ)

「バカ野郎がっ! 自分がなにしてんのか分かってんのか!」(フェル)

「はっはっは! 自分で言うのもなんだが、俺は1人で悪魔を倒そうとした男だ! これがバカじゃなくてなんだってんだ!」(ノッチ)

「自覚あったんだ」(サタ)

「うっせ…まあ、そんなわけだ。俺はバカだからな。あいつをどうやって倒せるか分からん! サタ! どうすれば倒せるか教えてくれ!」(ノッチ)

「と、言われてもな…」(サタ)

「っすー…ふー…仕方ない。あたしは狩りをまっとうするだけだ…!」(葉巻を吸いながら棺をぶん投げてくるノッチ)

「「ぎゃああぁぁ!?」」(ぎりぎりかわす2人)

「鎖でつないだ棺をぶん投げるって、なにあいつ!? 怖くない!?」(ノッチ)

「あの棺…普通じゃない。あの攻撃を喰らってから、私は能力を封じられて…弱体化してる」(サタ「それで弱ってるのか…」(ノッチ)

「ただ、つけ入る隙がないわけじゃない。さっきから攻撃できるタイミングはいくらでもあるのに、ぜんぜん攻撃してこないで、葉巻ばっかり吸ってる」(サタ)

「っすー…ふー」(フェル)

「ほんとだ。そういえば、昼間会った時も、やたら吸ってたなぁ」(ノッチ)

「それだけ余裕があるのかと思ってたけど…あきらかにおかしい。余裕ぶるにもほどがあるっていうか…あれは吸わないといけないもの…なのかもしれないな」(サタ)

「吸わなきゃいけない…? なんか言ってたな…あれを吸ってるから正気を保っていられるとかなんとか…それが関係してんのか?」

「正気? どういうこと?」(サタ)

「さぁ? ただ、葉巻を吸いすぎだって注意したら、そんなこと言っててさ」

「…他になにか気になることは?」

「うーん…俺が棺に触っちゃった時、やけに慌てた感じで…なんともないか心配してくれた。ああ、そうそう! その時、あの葉巻をくれたんだよな! これこれ!」(葉巻を見せるノッチ)

「これは…すんすんっ…催眠効果のある葉が使われてる…?」(サタ)

「???」(ノッチ)

「なるほど、分かっちゃったもんねー」(サタ)

「なにが?」(ノッチ)

「あの棺には、異形の力を封じる力がある。おそらく、精神に作用してね。でも、それは使用者にも作用するんだと思う。あの小娘は、棺の精神汚染を中和するために、この催眠効果のある葉巻を吸ってるんだ」(サタ)

「精神汚染…中和…」(ノッチ)

「ようするに、これを吸わないとあの小娘は、頭がおかしくなるってわけ。どうにかあの小娘から、この葉巻を全部奪い取ることができれば…」

「勝てるってことか?」

「そういうこと!」

マジか!

「作戦会議は終わりか?」(フェル)

「まあね。ずいぶんと長いこと待ってくれてどーもー」(サタ)

「はんっ。どうやらあたしの弱点に気づいたみたいだけどな…クソガキ1人と、弱ったクソ悪魔1匹じゃどうにもならねぇだろうがよ」(フェル)

「それはそう」(サタ)

「え?」(フェル)

「いやぁ…弱点に気づけたのはよかったけどさ? あの怪力小娘の隙をついて、葉巻を奪うなんてできるわけなくない?」

「あー」(ノッチ)

「ぶんぶんぶんぶん」(鎖を元気よく振り回しているフェル)

うん、無理な気がするぜ。

「んじゃまあ、そろそろ第2ラウンドだぜ!」(喜々として棺を振り回すフェル)

「「逃げよう!」(2人)

そんなこんなで―。

「待てやゴラァ…!」(追いかけるフェル)

「「ひえぇぇぇ」」(逃げている2人)

「情けない! この私が! 人間から逃げることになるなんて!」(サタ)

「せっかくかっこよく飛び出したのにこのざまかよ!」(ノッチ)

「逃げても無駄だぁぁ!!」(棺を投げ飛ばすフェル)

「「ぎゃああ!?」」(ぎりぎりよける2人)

「ちっ…山の中じゃ取り回しが悪いな、ちくしょう」(フェル)

そう―なんとか逃げられているのは、地の利がこっちにあるからだ。

平地に逃げようものなら、たちまちあの驚異的なパワーですり潰されてしまうだろう。

今はなんとか木々の合間を塗って、鎖が引っかかり、少しでも時間稼ぎができることをお祈りするのみ。

まったく情けないことこの上ないが―情けなくても、これで活路を見出すしかない。

そうしてしばらく逃げ回っていたのだが―。

「「げっ」」(開けた場所に来てしまった2人)

「はっはっは! 悪運もここまでだな!」(フェル)

俺たちを守ってくれる木々はなく、視界を遮る傾斜もない。

これじゃあ、あの怪力シスターが好き勝手武器を振り回せてしまう―。

「なーんてな」(ノッチ)

「あん…?」(フェル)

「昼間、伝え忘れてたんだけどさ。実は、山間の街に続く道の途中には、沼地があってさ。ちょうど俺たちがいる場所が、その沼地なんだ」(ノッチ)

「!?」(足をとられたフェル)

(棺が重さで沼に沈んでいく)

「あの…それ私にも教えて欲しかったんだけど」(沼に沈んでいくフェル)

「あ、ごめん。忘れてた」(ノッチ)

「この程度で…! あたしを足止めできるでも思ったか! このクソガキが!!」(力で沼から抜け出そうとするフェル)

「暴れれば暴れるほど、どんどん呑みこまれていくぜ!」(サタの救助をしているノッチ)

「あの…私もどんどん沈んでるんだけれども」(サタ)

「マジごめん」(ノッチ)

「うおぉぉぉぉ!!」(力で徐々に抜け出していくフェル)

「え、マジで?」ノッチ

「と、とんでもないな…」(ノッチの手でなんとか抜け出せたサタ)

「異形は必ず狩る…! ふんぎゃっ!?」(顔面に泥をぶつけられたフェル)

「え」(サタ)

「ここに来たのは、あんたの動きを止めるだけじゃない。こんだけ水があって、湿気があれば…火を消すのに困らないと思ってさ」(ノッチ)

「このクソガキ…!」(フェル)

「なるほどな。葉巻を奪うことはできないが、物理的に吸えなくすれば同じことってわけか」(泥を手にするサタ)

「楽しい泥団子作りの時間」(ノッチ)

「こんな感じ?」(泥団子作ってるサタ)

「そんな感じ」(ノッチ)

「こいつら絶対許さなっ―わぷっ!?」(葉巻を吸おうとしたけど泥団子をぶつけられたフェル)

「吸わせないぜ」(ノッチ)

「…なんか絵面がさ。小さな女の子に、泥をぶつけてるの…よくない感じがする」(サタ)

「じゃあ、やらないのか?」(ノッチ)

「やる」(サタ)

「やるんかい」(ノッチ)

「こっちは住処を荒らされてるんだ! 意趣返しはさせてもらわない…とな!」(泥団子を投げるサタ)

「あ!」(また吸うところを邪魔されたフェル)

「「絶対に吸わせないぜ」」(2人)

「…いいだろう。ソッコーで片付ければそれで済む話だしなぁ…!」(吸うのは諦めて棺を振り回すフェル)

ひゅーん…。(明後日の方向へ飛んでいく棺

「なっ…泥で手がすべって…!」(フェル)

「どうやら、まともに攻撃もできないみたいだな!」(ノッチ)

「降参するかい?」(サタ)

「誰がするか! このクソボケ!」(フェル)

それからというもの―俺たちは葉巻を吸おうとするシスターを徹底的に妨害。

時折、シスターがブチ切れて棺を飛ばしくるが、狙いが定まらないみたいで、避けるまでもない。

そうして、すべての葉巻を使えなくした時だった。

「!?」(目を見開くフェル)

「?」(ノッチ)

「む?」(サタ)

「ぐっ…あああぁぁぁぁぁぁ!!」(発狂するフェル)

「な、なんだなんだ!?」(ノッチ)

「あの棺の精神汚染だ!」(サタ)

「じゃ、じゃあ、成功したのか? でも…なんか…思ってたよりも苦しそうだ…大丈夫なのか?」(ノッチ)

「…あのままじゃ死ぬかもしれない」(サタ)

「え!?」(ノッチ)

「…ちくしょう! あ、あたしの中に入っていくるのなクソが…! あっ…あぁあぁあぁぁ!!」(フェル)

・・・

・・・

— 場面転換 —

「!」(目を覚ましたフェル)

「起きたか?」(ノッチ)

「…ここは」(フェル)

「山間の街にある宿だ。お前がぶっ倒れたから」(サタ)

「…あたしを助けたのか?」(フェル)

「葉巻、ぜんぶ使えなくなっちゃってたからさ。サタが持ってたやつに火をつけて、その煙をあんたに吸わせて…」(ノッチ)

「どうやって助けたかなんて聞いてねぇ! なんで助けたか聞いてんだよ!」(フェル)

「だって、あんたは悪い人じゃないだろ?」(ノッチ)

「なっ…」(フェル)

「俺は村とサタを守りたいからあんたと戦ったけど…あんたを殺したいわけじゃない。だって、あんた悪い人じゃないし」(フェル)

「ば、バカなのか…? あたしを生かしておいたら、そこのクソ悪魔が生きている限り、必ず殺しにいくぞ…? お前の村だってそうだ。一体どういう腹積もりで、あたしを助けようなんて…」(フェル)

「え? だって、あんた勝負に負けたじゃん」(ノッチ)

「は?」(フェル)

「勝負に負けたら! 勝ったの方の言うことを聞くもんだろ?」(ノッチ)

「なに言ってんだこいつ」(フェル)

「こういうやつなんだ」(サタ)

「ええ…?」(フェル)

「というわけで、俺が勝ったからサタと俺の村のことは諦めてくれ!」(ノッチ)

「…頭が痛い」(フェル)

「あ、葉巻いる?」(ノッチ)

「そういう意味じゃねぇ! バカかてめぇは!? 素直にあたしが言うこと聞くとでも思ってんのかぁ?」(フェル)

「うわぁ~負けた癖に~」(ノッチ)

「負けた癖に~」(サタ)

「かっちーん」(フェル)

閑話休題。

「…ったく。分かったよ」(フェル)

「え? まさか頷くとは…」(サタ)

「やったー」(ノッチ)

「一体どういう風の吹き回しだ? 教会の狩人が獲物を見逃すなんて…だまし討ちでもするつもりか?」(サタ)

「てめぇら悪趣味なクソ悪魔と一緒にすんな」(フェル)

「悪魔が悪趣味なのは認めるけど…なにを考えている?」(サタ)

「あの棺の中に入っているものは、聖骸っつってな。詳しいことは省くが、異形の力をある程度封じることができる。ただ、周囲の生物に甚大な精神汚染を引き起こす。あの棺はその汚染を限りなく抑え込む代物なんだが…それでも長いことあれの近くにいると、精神を汚染されちまう。んで、その汚染を中和するために、催眠効果のある葉巻が必要なわけだ」(フェル)

「お前はそれだけ長く、そんな危険なものを振り回していたのか…? 一体どうしてそこまでして狩りをまっとうしようと…」(サタ)

「あたしはある呪いをかけられている。悪魔との取引でな」(フェル)

「!」(サタ)

「取引?」(ノッチ)

「あたしがこんなクソみたいな見た目なのは、その呪いのせいだ。あたしはこの呪いを解くために、呪いをかけたクソ悪魔を探しているんだ。ただ、相手がどんな悪魔が分からねぇから…手当たり次第に狩りまくってんだよ」(フェル)

「でも、悪魔の取引ってことは…なにかしらお願いを叶えてもらえたんだろう? サタの話を聞く限りじゃ、悪魔の代償は性格が悪いみたいだけど…俺から言わせれば自業自得みたいに思うぞ?」(ノッチ)

「自分で望んで取引すればな」(フェル)

「?」(ノッチ)

「なるほど。取引の代行か」(サタ)

「???」(ノッチ)

「クソ人間の中には、自分の願いごとを叶えるために、他人に代償を肩代わりさせるクソがいるんだよ」(フェル)

「あ」(ノッチ)

俺が妹の代わりに代償を受けた時みたいなことか?

まあ、あれは俺の願いを叶えてもらったから状況は違うけど…でも似たようなことだよな…?

「それで? どうして私は見逃してくれると?」(サタ)

「聖骸の精神汚染は、無垢な魂には及ばない。そこのクソガキは、あの棺に触れたが微塵も精神を汚染されなかった。それだけ真っ白な魂を持ってることなんだろうよ。この時代に、そんだけ純粋な野郎がいるってんなら…まあ、信じてみてもいいと思ってな。で、そいつが信じる悪魔なら…信じてやってもいい。そう思っただけだ。なにより、あのクソ悪魔じゃなそうだしな」(フェル)

「…そっか」(サタ)

「…なあ、サタ? こいつの呪いって、なんとか解けないのか?」(ノッチ)

「え?」(フェル)

「できないことはないと思うが…悪魔の取引を使えばな。ただ、それ相応の代償は覚悟すべきだな」(サタ)

「ふんっ。取引なんて二度とするかボケ。あたしのことは放っておけ…」(フェル)

「代償は俺が払う」(ノッチ)

「はぁ!?」(フェル)

「…本気か?」(サタ)

「教会の狩人は、俺たちを守ってくれる人たちだろう? 今回はまあ…行き違いでこんなことになったけど、そんな人たちが苦しんでるんだ。力になりたいって普通思うだろ?」(ノッチ)

「…」(フェル)

「それに、まあ…サタのことを見逃してくれるお礼もかねてっていうか」(ノッチ)

「ノッチ。1度目の取引が軽いものだったから安易にそういう発想に至ったんだろうが、本来悪魔との取引は気安くするものじゃない」(サタ)

「そうだ! やめとけ! あたしのことはいいんだよ!」(フェル)

「大丈夫だ。俺はサタのことを信じてる」(ノッチ)

「…分かった。まあ、できるだけ不幸にならない代償を払ってもらうようにする」(サタ)

「ふ、ふざけんな! 勝手にそんなこと…!」(フェル)

その後、ずっとシスターはぎゃーぎゃー言っていたが、全部無視した。

そして―。

「はい、これで呪いは解けたぞ」(サタ)

「え、は…?」(フェル)

「よかったね」(ノッチ)

「…あたしの呪いが…解けた?」(フェル)

「そのはずだ」(サタ)

「…おい、こいつは一体どんな代償を払ったんだよ」(フェル)

「彼の将来」(サタ)

「て、てめぇ…なんてことを!」(フェル)

「彼の髪の将来が代償として支払われた」(サタ)

「は?」(フェル)

「え、それつまり俺は…」(ノッチ)

「ふ…そうさ。お前は将来ハゲる!」(サタ)

「マジかよ!」(ノッチ)

「…う、嘘をつけ! その程度の代償であたしの呪いが解けるわけねぇだろ!? なめてんのか!?」(フェル)

「俺の髪の代償がその程度!?」(ノッチ)

「等価交換の原則に従い、間違いなく適切な代償を支払ってもらった。もちろん、難しいことではあった。彼の寿命そのものではなく、髪の寿命だからな。これは悪魔の中でも、私くらいにしかできないこと! これでも昔は神すら崇められたこともある私だからこそできることで―」(自慢げなサタ)

「て、適切って…それじゃあ、あたしを長年苦しめてきた呪いが、ハゲと同じってことに…ええ…」(フェル)

「ねえ、俺が将来ハゲることに対して、あまりにも扱いが軽くない? ねえ?」(ノッチ)

— 場面転換 —

それからというもの―。

「定期的にようすは見に来るが…まあ、教会には悪魔なんていなかったって…報告してやる」(フェル)

「ありがとう!」(ノッチ)

「…あ、あたしの方こそ…世話になったな。またな、ノッチ?」(顔を赤らめているフェル)

教会から派遣された狩人のことは、これにて一件落着となった。

で、俺とサタはというと―。

「とんとんとん」(サタの家を作っているノッチ)

「えっちらおっちら」(木材を運んでいるサタ)

サタの家を作っているところである。

「ありがとう…手伝ってくれて」(サタ)

「それは別にいいよ」(ノッチ)

「つ、疲れてないか…? よかったら…ひ、膝枕とか…してやるけど?」

「なんかやけに優しくない?」

「…一応、ノッチに救われた身…だしな。そのお礼というかなんというか…他意は別にないからな! 勘違いするなよ!」

「そんなことよりさ」

「ん?」

「俺、どうやったら将来ハゲずに済むかな」

「それはもう不可避の運命だよ」

「ちくしょう!」

もう悪魔との取引なんかするもんか!

おまけ

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