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俺がハーレムを全力で阻止する! 第9話

作:青春詭弁

「さあ、ここが我が家だ」

「……お邪魔します」

 時雨は優大の背に隠れながら、おずおずと内木家の敷居を跨ぐ。

 借りてきた猫のような仕草に、優大は思わず表情が崩れた。

「なにか……」

 それが面白くなかったのか、時雨が目で威嚇を試みる。

 だが、今の時雨などまったく怖くはないと、優大は知らんぷり。

 彼女を玄関に放置して、「タオル持ってくるから待ってろ」と一足先に家の中へ入っていく。

 置いて行かれた時雨は、所在なさげに濡れた前髪をいじったり、特に意味もなくスカートの裾を整える。

 ――妙にそわそわするわ。

 なぜかは分からない。

 相手が好きでもない男の子でも、”男の子の家”というだけで落ち着かない。

 仮にこれが時雨の想い人である高原 日和の自宅であれば――一体自分はどうしていたのだろうか。

「ふっ……」

 そんな”ありもしない”仮定を思い浮かべ、時雨は失笑した。

 くだらない。

 自分には想い人なんていなかったじゃないか。最初から。

 結局、ただ自分が機械ではないと思いたいがために、高原 日和という善良な男の子を利用していたにすぎない。

 親切にされたから好意を抱いた。

 実にありきたりで、実にありふれた理由付けをして、自分を納得させて、証明しようとした。

 だが、証明されたのは”自分が機械である”という事実だけだった。

 すべて無意味だった。

 やはり自分は、両親の言う通り機械なのだ。

 血の通った人間などではなく、歯車と電気で動くロボット。きっとこの胸を切り開けば、基板があるはずだ。

「さむ……」

 4月のまだ冷たい雨に打たれ、体の熱が奪われていくのを感じる。

 頭が冷静になっていくと同時に、体温が下がっていく。

 周囲の温度が下がっていく。

 さむい。

 自分の体を抱き締める。

 そこに人肌の温かさなどない。

 機械のように、無機質な冷たさしか感じられない。

 ――ああ、知りたくなかった。

 私は機械。

 人の真似事をしているだけの人擬き。

 なんて愚かで、なんて醜い。

 ――このまま消えていなくなりたい。

 そう考えて目を閉じる時雨。

 直後、頭に温かな熱を感じて、弾かれるように目を開く。

「大丈夫か? 震えてるぜ?」

「……内木くん」

「はい、内木くんですよー。ほら、まずはタオルで頭拭いとけ。さっき風呂沸かしておいたから、あと5分もすれば入れるぜ。それまで、もちっと我慢しとけ」

「……」

 時雨の頭に感じた熱は、優大の手の熱であった。

 時雨の頭にタオルを被せる際、手を置いたのだろう。

 タオルを戻ってくるついでに、制服からラフな部屋着に着替えていた。

「内木くんの手、温かいのね……」

「?」

「人の温かさだわ……羨ましい」

「は? なに言ってんだ?」

「私は、冷たいから」

 優大は時雨の言わんとすることがよく分からず首を傾げ――。

「ちょっと手ぇ貸せ」

「え……?」

 優大はおもむろに時雨の手を取り、看護師が脈を測るように神妙な面持ちで手首に自身の親指を当てる。

「つめてっ」

「……」

「お前、ひえっひえっじゃねぇか。これじゃあ、風呂が沸く前に風邪引いちまうな……ちょっと待ってろ。温かい飲み物でも持ってきてやるよ」

「あ、ちょっと……」

 そうしてまた玄関に置き去りにされる時雨。

 別に、体温的な意味ではないのだが――。

「やっぱり、温かい」

 時雨は優大に触れられた場所をさすりながら、自分との違いをまざまざと確認する。

「……?」

 と、ここで時雨の表情に変化が生じる。

 困惑だ。

「なんだか……熱くなってきたような」

 おかしい。

 時雨は未曾有の事態にただ戸惑っていた。

 さすっていた手が、どんどん熱を帯びていくのを感じる。

 そこから徐々に、全身へ熱が伝播していく。

 先ほどまでの無機質な冷たさはどこへやら。熱暴走した機械のように、時雨の体が熱を持っていく。

 これじゃあ人間のようではないか。

「ほれ、ココア持ってきたぜ。飲むか?」

「!」

 時雨が戸惑っているうちに、優大がマグカップを持って帰ってきた。

 目の前に出されたマグカップに時雨はしどろもどろになり、「あわあわ」と言いながらあわあわする。

「どうかしたか? あ、ひょっとしてココア苦手だったか? 他のにすっか?」

「い、いえ、これでいいわ。いただきます……」

 時雨はおずおずと手を伸ばし、優大からマグカップを受け取る。

 それからココアをひと口――。

「……あまい」

「温まるだろ?」

「ええ、ありがとう」

「おう」

 それからしばらくして、お風呂が沸いたことを知らせる音声が聞こえたきた。

「んじゃ、入ってこいよ」

「あなたから入ってちょうだい」

「ばーか。客人が先に決まってんだろ。だいたい、これでお前が風邪引いたら、なんのためにうちまで連れてきたか訳分らんだろ」

「……えっと」

「とりあえず、着替えは妹のジャージでいいよな? 俺のよかマシだろ?」

「……別にあなたのでも」

「なんか言ったか?」

「……なんでもないわ。それじゃあ、先に使わせていただくわね」

「おう」

 そうして時雨は遠慮がちに、内木家のお風呂へ入る。

 さて、時雨をお風呂に案内した優大はというと――。

「なんか今日のあいつおかしくねぇか」

 頬が火照っている。

 妙にしおらしいというか。

「今日はなんつーか……あいつに驚かされてばっかりだな」

 ジェットコースターみたいな日だった。

「さてと……」

 優大は時雨が上がってくる前に、いくつかの家事を片付けるべく袖をまくった。

◆ ◆ ◆

 ぽちゃんぽちゃんぽちゃん。

 水滴が湯舟に落ちる音が反響する。

 お風呂場の曇りガラス越しからは、雨音が聞こえてくる。その勢いは、微かに弱まっているように感じられる。

「――」

 時雨は目を閉じて、肩まで湯舟に浸かった。

 彼女が祖父母と共に住んでいる洋館では、ここよりも遥かに大きな浴槽がある。のびのびと足を伸ばしても、余りあるほどだ。

 それと比べると物足りなさはあるが、なぜだか時雨はこのお風呂のほうに安らぎを覚えていた。

「……あたたかい」

 ぶくぶくぶく。

 口元まで浸かって泡を出す。

 いくら安らぐとはいえ、ここは他人様の家。

 普段の織笠 時雨であれば、ここまで無防備にリラックスなどしないのだが……。

「今日の私はおかしい」

 時雨は立ち上がり、浴槽のふちに腰掛ける。窓越し聞こえてくる雨音に耳を傾けながら、今日1日を振り返り――あまりにも自分らしくないと頬を朱色に染める。

「内木 優大……彼は悪くないのに、八つ当たりみたく怒って……その後も癇癪を起こした子どものように拗ねて……」

 そして、今まで誰にも話したことがなかった自分の話をした

 高原 日和にだって話したことがない。自分の核となる部分。

 自分が長い間、思い悩んできたことをなぜ優大に話したのか。

 けじめとは言ったが、あそこまで赤裸々に話すつもりはなかったのだ。

 自分が機械であることを証明するために、高原 日和を利用した。こんなことを言えば、彼が怒ると分かっていたからだ。

 でも、なぜか時雨はそれを話してしまった。

 そして、優大は時雨を怒らなかった。

「……」

 何よりも友情を重んじていた男が、振り上げた拳の落としどころに困っていた。

「優しい人……」

 自分は彼に責められても仕方がないことをしていたのに。

 だからだろうか。

 今の時雨には、優大に対して罪悪感に似た感情を覚えていた。

 否、それだけではない。それだけでは説明できない感情がある。

「……ダメね」

 考えてもその感情がなんなのか、時雨には分からなかった。

 彼女は頭を横に振ると、浴槽のふちから立ち上がってお風呂場を後にする。

「これかしら……」

 時雨はバスタオルで体についた水滴を拭いながら、優大が用意してくれたであろう着替えを見つける。

 時雨たちが通っている高校のジャージである。

 先ほどの会話から優大の妹のものであることは予測できた。しかし、女子用のジャージにしては、妙にサイズが大きいような――?

 普段の彼女であれば、それが”男性のジャージ”であることに気づけた。しかし、今の彼女は普段通りではない。

 それゆえに辿り着かなかった。

 そのジャージが内木 優大のものであることに。

 気づかないまま時雨は優大のジャージを着る。案の定、小柄な時雨にはサイズが合わず、上下ともにぶかぶか。袖は余り、ズボンの裾に至っては床を擦る始末。

 時雨はそのことに申し訳なさを覚えつつも、着替えがこれしかないためやむを得ず、脱衣所を後にする。

 脱衣所の前に置かれた客人用と思わしきスリッパを履き、音と光が漏れるほうへ足を進める。

 ドアを開くと、そこは内木家のリビングであった。

 時雨が住んでいる洋館に比べれば、ずいぶんと素朴であるが、不思議と居心地のいい温かみがあった。

 視線を彷徨わせると、キッチンに立つ優大の姿が目に入る。

 シンプルな青い柄物のエプロンを制服の上に着用した彼は、手際よく洗い物をしていた。

 じゃぶじゃぶと水を流す音のせいで、時雨がお風呂から上がったことに気づいていないようす。

 時雨はお風呂や着替えのお礼をしようと1歩踏み出したところで――下腹部の辺りに、なにかがぶつかったのを感じた。

 驚いて下を向くと、そこには小学生ほどの男の子が、指を咥えながらじーっと時雨の顔を見上げて立っていた。

「え、あ……ごめんなさい。気づかなくて。怪我はないかしら……?」

 時雨は男の子と目線を合わせて謝罪の言葉を口にする。

 男の子はそれに対して、特に反応することはなく、しばらく無言で時雨のことを見つめる数秒。

「お姉ちゃん、キレイだねぇー。お兄ちゃんのカノジョ???」

「違うわ」

 即答である。

 それも時雨史上最速の。

「ええー? 違うの?」

「違うわ」

 二度目は少しむきになって否定する。

 理由は本人でもよく分かっていない。

「でも、それお兄ちゃんのジャージでしょ?」

「!?」

 男の子に指摘され、時雨はようやくジャージの所有者に気が付いた。

「いわゆるカレシャツってやつだー!」

「!?!!?」

 パニック!

 今、時雨の脳は未曽有の事態に、完全に機能を停止していた。

 なぜ自分が年下の男の子に赤面させられているのか。

 というか、なぜ優大のジャージだからといって、自分が顔を赤くしなければならないのか。

 それらの答えの出ない疑問が、頭の中をぐるぐると走り回る。

「カレシャツじゃなくて、カレジャージじゃねぇか?」

 と、そこに優大が現れたせいで、時雨のパニックは加速する。

「私は彼女じゃないけれど!?」

 考えがまとまらないまま、時雨は思わず声を荒げる。

 優大は「え? 知ってますけど?」といった感じで、怪訝そうに眉を寄せる。

「こいつは、弟の広大。小学2年生だ」

「ボク、コーダイ!」

「てか、悪かったな。妹のジャージ探したんだが、ちょうど洗濯中でな。結局、俺のしかなくてよ」

「そ、そう……それなら……仕方ないわね。ありがとう」

 前はもっと平常心でいられたのに、今はどうしてか優大を前にすると落ち着かない時雨。

 濡れた髪を忙しなく撫でてしまうし、視線だってあちこち泳ぎっぱなしである。

 一体、自分の中でなにが起きているのか。

 時雨は体験したことのない事態に戸惑うばかり。

 優大はそれを知ってか知らずか、時雨に「まあ座れよ」と椅子まで案内する。

 時雨は言われるがまま椅子に座るが、いまだ落ち着かず、何度か座り直した。

「お姉ちゃんお姉ちゃん」

 そこへ広大がちょんちょんと、時雨の袖を引っ張って話しかける。その目には、好奇心が宿っているのが見て取れた。

「お兄ちゃんのカノジョじゃないなら、トモダチ?」

「友達……では、ないわね」

「じゃあ、ナカヨシ?」

「仲良しでもないわね」

「じゃあ、なんでうちに遊びにきたの?」

「遊びにきたわけじゃないわ」

 時雨はちらっと優大に目を向ける。どうやら時雨のために、お茶を淹れてくれているらしかった。

「じゃあ、なにしにきたのー?」

「……雨宿りかしら」

「ふーん? それだけ? お兄ちゃんのこと好きなんじゃないのー?」

「それはない」

 そこだけは絶対に否定したかった。

「でも、好きでもない男の家に来るかなー?」

「む」

 なかなかに聡い小学2年生である。

 時雨としても、それを言われると少し弱ってしまう。

 なぜ自分は優大の提案に乗って、のこのこと家まで来てしまったのだろう。

 こんなことは以前までの彼女ならありえないことだ。

「ほらよ」

 優大は3人分のお茶をテーブルに乗せる。広大は「わ~い」と自分の分を勢いよく飲み、それを見て優大は「落ち着け落ち着け」と世話を焼く。

 時雨はそんな兄弟の――家族の営みを見ながら、自分の家族との違いに面を喰らう。

 ――こんな家庭もあるのね。

「なに? お客さん……?」

 そこへさらに人が追加。

 どこか険しい表情をした中学生くらいの少女である。

「ああ、こいつは同じ高校のやつで、織笠 時雨。こっちは俺の妹の奈々子だ」

 優大が各々紹介すると、2人は「どうも」と目を合わせて軽く会釈する。

「うわ……すっごい綺麗な人……まさかクソ兄貴の彼女……?」

 広大と同じ反応に、時雨は思わず苦笑を浮かべる。

「ちげーよ」

 奈々子の疑問に優大が応えると、奈々子は「ふーん」と目を細める。疑いの眼差しだ。

「まさか無理矢理――」

「ちげーよ!? 奈々子ちゃんはお兄ちゃんことをなんだと思ってるんだ!?」

「クソナンパクソ兄貴」

「クソが2個もついてるぅ」

「あたしにもお茶」

「へいへい……兄使いの荒い妹様だぜ……」

 やれやれとしながらも、優大は妹のためにお茶を淹れる。

 その間、奈々子はというと――。

「あの、織笠さん……?」

「?」

 時雨の袖を引っ張って、話しかけていた。

 まんま広大と同じムーブである。

「ほんとに、あのクソ兄貴に無理矢理連れて来られたわけじゃないですよね……?」

「え、ええ、それは大丈夫よ。私の意思でここに来たから」

「そうですか……もしかして、あれのことが好きとか?」

「違うわ」

「身内ながらやめておいたがほうが……」

「だから違うわ」

「クソ兄貴は、バカだし、臭いし、言ってること意味分からないし、ナンパばっかりだし、どうしようもないクズなんです」

 ひどい言われようである。

 が、否定はできない。

 ――妹さんからは随分と嫌われているようね……。

 これには時雨も苦笑する他ない。

「まあ、でも……あれで身内には激甘で、いい兄ではあるんですけどね」

「――」

 先ほどまでの罵倒が嘘のように、奈々子はぼそっと時雨の耳元で呟いた。

「あたしがダイエット中って知って、いちいちあたしのためにメニュー考えてくれるところとか……いいところはあるんで……おすすめはしないですけど、付き合うなら応援します」

「いえ、だからそういうのではないから」

「でも、なんでもない男の家には来ませんよね? 普通」

「……」

 そう言われてしまうとそうなのだが……。

「私も……なぜここへ来てしまったのか分からないのよ」

 時雨は自分でも分からないままにここにいる。

 一体なぜ――その答えは、いまだ出ていない。

「ほーい、奈々子ちゃーん。お茶持ってきたぞー」

「遅い、クソ兄貴」

「ひどくね」

 奈々子は優大からお茶を奪い取り、そのまま2階にある自室へと戻っていく。

「はぁ……今日も妹が冷たい」

 相変わらずな奈々子のようすに落ち込んでいる優大。そんな彼に、時雨はぽつりと呟く。

「いい妹さんね」

「だろ?」

「弟さんもね」

 時雨が言うと、広大は「きゃきゃきゃきゃ」と優大の足にしがみつき、遊んでほしそうにせがむ。

 優大は「お客さんがいるからめーっ」と、ちゃんとお兄ちゃんをしていた。

「本当に……いい家族だわ」

 温かな家族の営み。

 ついぞ、自分には訪れなかったもの。

 織笠 時雨が求めていた人肌の体温。

「お、雨が止んだみたいだぜ?」

 優大はカーテンを開き、虹がかかった夕焼け空を時雨に見せる。

「――」

 美しい光景だ。

 だが、時雨の目は夕焼けに向けられていなかった。

 その目に映るのは、内木 優大という1人の人間。

「ほら、広大。見えるかー?」

「キレイだねー!」

 どきどきと鼓動する心臓。

 優大を見つめていると、体がふわふわする。

 今まで感じたことのない体の異常。

 しかし、不思議といやな感じではない。

 今、織笠 時雨は内木 優大に対して、特別な感情を抱いている。

 それがなんなのか、時雨にはまだ答えを出せそうにはないが――。

「綺麗ね……」

 きっと彼女は、この時の光景を決して忘れることはないだろう。

◆ ◆ ◆

 雨が止んだことで、時雨は内木家を出て帰宅することになった。

「別に送ってくれなくてもいいのに」

「この辺のこと分らんだろ? 駅まで送るよ」

 優大は時雨を駅まで送り届けるため、雨に濡れたアスファルトの上を時雨と並んで歩いている。

「今日はありがとう」

 唐突に、時雨が感謝の言葉を述べる。前をじっと見ているが、その感謝の矛先が誰に向いているのかは言われるまでもなく理解できた。

「てめぇにお礼を言われるのは、背中がむずむずするな」

 優大は素直に受け取れず、茶化すように肩を竦める。

「だいたい、そりゃあなんの礼だ?」

「そうね。なんのお礼かしら」

 時雨はくすりと微笑み、はぐらかす。

「なんだよ、それ?」

「……あなたに私のことを話したら、なんだか憑き物が落ちたような気持ちになってね……今清々しい気持ちなのよ」

「……」

「だから、ありがとう」

「別に、礼を言われるようなことじゃねぇだろ」

「私がただ言いたかっただけよ」

「……そうかよ」

 優大はなんとなく彼女の顔を見られず、誤魔化すように天を仰ぐ。

 ふと、優大のスマホが音を鳴らす。ポケットの中のそれを手に取って確認すると、日和からメッセージが送られてきていた。

 メッセージの内容を見て、優大はぴたりと足を止める。

 時雨もそれに合わせて足を止め、何事かと首を傾げる。

「織笠 時雨」

「なにかしら」

「俺ともう一度協力する気はねぇか」

 言いながら、優大はスマホの画面を見せる。

 そこには「轟さんとデートをすることになった」という内容のメッセージが書いてあった。

「でも、私は」

「分かってる。てめぇは、日和に本気じゃなかった。だから、てめぇにとってはなんのメリットはねぇだろうさ」

「……」

「俺にはお願いすることしかできねぇ。俺は日和のためにも、なんとしてでもあのお嬢様を口説き落としたい。そのためには、やっぱり織笠 時雨の力が必要だと思う」

「私は失敗したのに?」

「成功だってしたじゃねぇか」

「……」

「俺はバカだし、正直1人じゃうまくいきそうにねぇ。けど、てめぇがいれば……うまくいくかもしれない。俺はそれに賭けたい」

 しばしの沈黙。

 夕焼け空に掛かる虹がきらきらと光の粒子となって消えていくと、やがておもむろに口を開く。

「分かったわ」

「!」

「……徹頭徹尾、嘘だった私の恋。それで迷惑をかけた高原くんの恋くらい、成就させないと……ね」

「そうか……ありがとな」

 こうしてここに2人の共犯関係は復活した。

「日時は次の日曜日。午前10時」

「場所は?」

「清水(きよみず)遊園地」

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