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奉仕用美少女アンドロイド「ユリ」 第1話

作:青春詭弁

 ゴウゴウゴウ――。

 地平線まで続く荒野。

 そこに雷鳴にも似た轟音が響き渡る。

「ナナシ様。こちら、アメリカのハイウェイとなっております。場所で言いますと――」

「呑気に言ってる場合か、ユリ!? いいからもっと飛ばしてくれぇぇぇぇ!?」

 荒野を駆ける一陣の風。

 その正体は白黒の美しいボディをした大型二輪――バイクであった。

 バイクには1人の少女が跨り、自身よりもひと回り大きなバイクを悠々と操っていた。

 彼女の名前はユリ。正確には、奉仕用美少女アンドロイド――識別ナンバー4649【ユリカゴ】。

 要するに、彼女は人間ではなく機械である。

 その証拠に、彼女の目は青白く光り輝いている。これこそ彼女が人間ではない証拠。

「っと、ナナシ様。しっかりつかまってください。目の前に崖です」

「が、崖!? 行き止まりってことか!? どうするんだ!?」

「当然、このまま飛び降ります」

「なにぃ!?」

 ブロロロロロロロ――。

 ユリはバイクを巧みに操りながらジャンプ台よろしく、傾斜のある坂道から大ジャンプ。そのまま眼下に広がる崖下へ落下。

「ひゃあぁあああぁあぁあぁぁあ!?」

 ユリの体にしがみつきながら絶叫している少年の名はナナシ。

 無論、本名ではない。

 少年はとある理由から記憶を失っており、紆余曲折を経てアンドロイドのユリから「ナナシ」という名前で呼ばれるようになった。

 さて、そんな少年の目は青白く光っているということはなく、至って普通のどこにでもいる人間である。

 そんな人間が数十メートルほどの高さから落下して無事なはずもなく――。

「俺、死んだ」

 ナナシは手を合わせて、自分の死を予感した。

 ――父さん母さんごめんなさい。結局、俺はなにも成し遂げられませんでした。

 今からおよそ300年前。

 地球では人とアンドロイドの間で戦争があった。

 その戦争の最中、ナナシは両親の手で脱出ポッドに入れられ、安全なシェルターへと避難。

 しかし、脱出ポッドに入る直前、ナナシは敵の攻撃により深手を負っていた。

 そのためシェルターにあった治療設備に移され、長い時間眠りについていた。

 その期間、なんと300年。

 ナナシはあまりにも長い眠りの影響で記憶を失っていたものの、シェルターでナナシの世話をしていたユリにより、人とアンドロイドの戦争が終わったことを知る。

 状況を知ったナナシは、アンドロイドのユリと共に安全なシェルターを出て、荒廃した300年後の世界で、自分以外の生き残りを探す旅へと出たのだが――今まさにその旅が終わりそうな状況というわけである。

 自由落下するナナシは、万事休すかと悟り、目を瞑る。

 刹那、ふわっとした浮遊感と共に落下する体が静止する。

 恐る恐る目を開くと、ナナシはユリの手によって抱きかかえられていた。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

「大丈夫ですよ。安心してください、ナナシ様。このユリがそばにいる限り、ナナシ様が死ぬようなことは絶対にありえません。わたくしがお守りしますから」

「今まさにユリが俺を殺しかけたんだけどな……? というか、なにこれ……? 浮いてるのか……?」

 よく見れば先ほどのバイクはどこへやら。

 ユリの体になにやら変なパーツが装着されており、スラスターから「ゴゴゴゴゴ」と火が出ていた。

「覚えていませんか? わたくし専用の戦闘用外部ユニット。識別名【スマッシャー】は、水陸両用の大型二輪。さらには、保護対象を護衛するため戦闘が必要は場面では変形し、バトルスーツになることも可能なのですよ」

「つまりがこれがその……?」

「はい。これこそがスマッシャーの戦闘形態です」

「すげぇ! 戦えるだけじゃなくて、飛べるなんて! かっこいい!」

「ふふん」

 ナナシに褒められたのが余程嬉しいのか、ユリはドヤ顔しながらゆっくりと降下。

 地面につくとそのままスマッシャーを再びバイク形態に変形させる。

「いきますよ! しっかりつかまってください!」

「お、おう!」

 ナナシはユリに言われた通り、彼女の腰に手を回す。

 ユリはそれを確認するや否や、アクセル全開で急発進。ナナシはあやうく振り落とされそうになりつつも、必死にしがみついてなんとか耐える。

「なあ、ユリ!? もう逃げ切れたんじゃないか!? あいつ、追ってきてないみたいだけど!?」

「いいえ、まだ追ってきています」

「え……? でも、後ろからはなにも……」

「いえ、間違いありません。今、わたくしたちを追ってきているのは、地質改造ユニット。識別名は――」

 その瞬間、地面が大きく揺れたかと思えば、轟音を立てて地面からなにかが飛び出す。

 ナナシは目を見開き、地面から現れたものに目を奪われる。

 それはあまりにも巨大だった。

 全長数キロにもおよぶ体。その見た目をひと言でたとえるなら――ミミズ。

 ユリはナナシと一緒にそれを見ながら、おもむろに口を開く。

「【サンドワーム】。あれは道なき道を猛進し、不毛の土地をふかふかにするため人類によって生み出された巨大な耕し機です」

「いやでかすぎるだろ!?」

 あまりにも巨大なサンドワームのボディが、ナナシたちの頭上を通り過ぎ、再び地面へと潜る。

「大きすぎて、動きがスローモーションに見えるけど……その気になればすぐ追いつかれるな……!」

「ですね。わたくしのスマッシャーの最高速度はマッハですが、ナナシ様が一緒にいる状態では全力で走れませんし」

「どうしてだ!?」

「ナナシ様の体が急激な加減速に耐えられないからです」

 2人がそうして会話している間にもサンドワームの巨躯が、バイクの進行路を塞ぐように地面から現れる。

「っぶな……!?」

 ナナシは咄嗟に目を瞑る。

 一方、ユリは焦ったようすもなく「変身!」と、素早くスマッシャーを変形。その身にスマッシャーを纏いながら、ナナシを抱える。

 それからユリは緩やかな曲線を描きながら、機首を持ち上げる飛行機のように、勢いそのまま慣性に従い、サンドワームのボディを這うような形で上昇。

 なんとか正面衝突を避けることに成功する。

「ナナシ様? 大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな! でも、ひやひやさせるなよ!? 危うくぺしゃんこになるところだったじゃないか!?」

「申し訳ありません。急減速すると、それこそナナシ様が耐えられず、慣性で吹っ飛んでしまいますので……」

「……アリガトウゴザイマス」

 そう言われるとナナシには、もはやお礼を言うことしかできない。

 ユリはそのままサンドワームのボディに沿いながら飛行を続ける。時折、ボディから出た突起物を左右に躱しつつ、腕に抱えたナナシを気遣う。

「このままでは逃げ切るのは難しいですね……機動力が違いすぎます」

「そもそも、なんでこいつは追いかけてくるんだ!?」

「サンドワームには人工知能が搭載されています。その疑似人格に使われているのは、子犬なのです」

「こ、子犬!?」

「つまり、サンドワーム的には300年ぶりの人間。久しぶりにご主人様を見たものだから、テンションがあがってじゃれついている感じですね」

「なんでそんな疑似人格を植え付けたんだぁぁぁぁ!?」

「でも、子犬がじゃれてきていると思えば、ちょっと可愛く見えてきますよね?」

「そのせいで死にかけてるんだが!?」

 ――まったく、はた迷惑な話である。

 と、そのサンドワームは再び地面へと潜り込む。上空へ留まるユリに、ナナシはふとした閃きを提案する。

「そうだ! あいつは空まで来られないだろ!? だったら、このまま空に逃げたらいいんじゃないか!?」

「先ほども言いましたが、サンドワームは全長数キロ。それに向こうのほうが速いので、上昇中に追いつかれたらひとたまりもありません」

「そ、そうか……」

「とはいえ、地面よりは上空にいたほうがマシでしょうが……」

 次の瞬間、地面から出てきたサンドワームは、その際に生じた衝撃で岩石を辺り一帯に、まき散らす。まるで移動する火山である。

 周囲に飛散する火山岩。そのうちのひとつが、ちょうどユリが滞空する場所へ飛来。

「ユリ!」

 ナナシが危険を感じ、ユリに声をかける。当然、ユリもナナシを守るべく、すでに迫りくる火山岩への対応準備を終えていた。

「装填準備――完了。第一安全装置解除。回路接続――完了」

 ユリはナナシを片手で抱え、空いた右手を構える。そこには極太の杭が装備されていた。

 パイルバンカー。金属の杭を火薬などを用い、高速で打ち出すことで対象を穿つ刺突武器。

 ユリ専用に制作された戦闘用外部ユニット【スマッシャー】に、標準搭載された一撃必殺の近接格闘装備である。

300年前。人とアンドロイドの戦争末期。硬いアンドロイドの装甲を破るため、人類の叡智を結集させて作り上げた最高傑作。高度に発達した技術の果てに行き着いた最強の武器は、最も暴力的なこの武器であった。

 とりわけ、ユリに搭載されたパイルは究極の一品。電磁力を用いて、杭を瞬間的に音速を軽々と超えた速度で打ち出す。レールガンにも似たこのパイルは、実際の戦争でも活躍し、数多のアンドロイドの装甲を突き破ってきた代物だ。

 射出される杭は出来る限り摩擦が発生しないように様々な工夫がなされている。その理由は、溜めに溜めたエネルギーをすべてを推進力とし、杭の先端に集中させるためだ。

 そうして生じる破壊力は想像を絶する――。

「第二安全装置解除。回路接続―完了。エネルギー充填開始。2%……11%……最終安全装置解除。回路接続―完了。エネルギー充填率30%……40%……」

 徐々に迫る火山岩。

 遠くから見た時には、小石ほどの大きさだったそれは、近づくにつれ大きくなる。ユリやナナシを押しつぶして余りあるほどの巨岩であることに、ナナシは今更ながら気づく。

 もはや避ける余裕すらない。

 頼みの綱はユリとスマッシャーのみ――。

「最終回路接続―完了。エネルギー充填率80%突破。リミッター限定解除。過剰充填開始――リミットブレイク」

 飛行機のエンジンにも似た甲高い音を響かせながら、ユリは右手を迫りくる巨岩に向ける。

「エネルギー充填率100%……110%……120%……スマッシャー準備完了――」

 ユリのその言葉と同時に、巨岩が目前まで迫る。

 ナナシは「ユリ……!」と自分の運命を彼女に託す。

 託されたユリは、彼を安心させるように頷き――。

「ユリ……いきます……!」

 ブースターを吹かし、勢いよく巨岩に向かって右手を突き出す!

「スマッシュ!!」

 刹那、蓄えられたエネルギーが解放。装填された杭は、強力な電磁力により打ち出されるや否や、巨岩に比べたら小さな小さな先端を打ち付ける。

 そんなちっぽけなもので、巨岩を止められるのか?

 そのような心配を無に帰すように、ユリの放ったパイルの一撃は、瞬きする間もなく巨岩を木っ端微塵に打ち砕いた。

 ユリの武装の威力を初めて目の当たりにしたナナシもこれには驚き、声も出ず硬直。

「ふふん。どうですか? これがわたくし専用に作られたスマッシャーの威力です!」

 当の本人はドヤ顔をしていた。

「す、すげぇ……! すごいなユリ! もうなんかよく分からないけどすごい!」

「大変語彙に乏しい賛辞をありがとうございます、ナナシ様」

「ごめんね」

 そうこうしている間にも、サンドワームの頭が滞空している2人に接近。

「なあ、ユリ! さっきのであいつを倒せないのか!?」

「あまりわたくしをなめないでください。できるに決まっているじゃないですか」

「マジか!?」

「スマッシャーの一撃なら、サンドワームの分厚い装甲を貫通し、木っ端微塵にするなど容易です」

「なら、最初からそれを一発ぶちかませば、俺たち逃げ回る必要なかったんじゃないか?」

「それはさすがに……可哀想と言いますか……」

「え?」

「ただ、じゃれているだけの子犬に向けるのは良心が痛みます」

「どこをどう見たらあれが子犬に見えるんだ……?」

 ユリはこほんっと咳払いをして、一拍置く。

「まあ、ナナシ様がそうしろというのなら拒む理由はありません。ナナシ様の安全のために、あの子には申し訳ありませんが大人しくしていただきましょう」

 言って、ユリは迫りくるサンドワームに対して右手を構える。

「おお! やってやれユリ!」

「……」

 ……。

 おや?

 と、ナナシは首を傾げる。

 先ほどはあれやこれやかっこいい単語を並べていたユリが、ひと言も発さず、身動きひとつ取らない。

「なあ、さっきみたいに安全装置とか解除しないのか? エネルギー充填しなくても大丈夫そ? もうサンドワームくん、すぐそこまで来てるんだけど……」

「わたくし、大事なことを忘れていました」

「へぇ~アンドロイドでも忘れることってあるんだなぁ~。で、なにを忘れてたんだ?」

「スマッシャーのパイルは絶大な威力で、どのような装甲でも容易く穿つことができますが……その代わり、一度使った後にしばらくクールダウンが必要なのです」

「ほうほう、つまり?」

「今は使えません」

 それに応えるように彼女の右手に装備されたパイルから「プシューーー」と熱が放出される。電磁力により、一瞬にして音速を超えて射出される杭――その威力に見合う代償は当然あって然るべきものだ。

「……じゃあ、このままだと俺たち」

「はい。サンドワームに食べられちゃいますね」

 パクリ。

 実際にそんな効果音はなかったが、2人が呑気に会話をしている間にサンドワームはヤツメウナギのような大口を開けて、ユリとナナシを呑み込んでしまった。

 サンドワームはそのまま地面へと潜り、呑み込まれた2人はというと――。

「「あああああああああ!?」」

 サンドワームが地面に潜った際、一緒に呑み込んだ砂や岩石、瓦礫に巻き込まれ、スマッシャーの飛行制御が失われてしまい、それらと一緒にサンドワームの奥へと落下。

「そんな大事なこと! アンドロイドなのに忘れるなよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「申し訳ありません! ナナシ様の前でかっこつけたくてぇぇぇ!!」

 暗闇の中、最後に響き渡ったのは、そんな2人の間の抜けた断末魔だった。

◆ ◆ ◆

「ユリー? ユリどこだー?」

 響き渡る声。

 薄暗い洞窟の中を歩いているのは、先ほどサンドワームに呑み込まれたナナシだ。

 現在、彼がいるのはサンドワームの体内ということになる。

 洞窟の中には、無数のカンテラが並び、暗がりを照らしている。

 ちなみに、洞窟と言ったが実際には違う。無機質な鉄でできた体内には、点検用の足場や階段、通路などが設置されていた。その下には大量の岩石が、がしゃがしゃごろごろ音を立てながら、ベルトコンベアーに乗って流れていく。

 ベルトコンベアーの向かう先は―。

「運よくこの足場に落ちて来られてよかったな。じゃなかったら、今頃ミンチだったな…」

 破砕機。

 がりがりと大きい岩石を砕き、そのあとは粉砕機で砂粒へと姿を変えられる。

「強大な耕し器ってユリは言ってたけど、粉々にしたあれをどこからか外に排出するんだろうな……」

 つまり、サンドワームの中から外に出る手段はあるということになる。

「でも、ここから脱出する前にユリを見つけないと……」

 サンドワームに吞み込まれた直後、ユリは一緒に吞み込まれた岩石に直撃。それによってスマッシャーの飛行制御を失い、ユリは奈落へと落ちていった。

「俺たちが呑み込まれた時、サンドワームは体が垂直になってたからなぁ……」

 現在は地面と平行の状態で活動を停止しているおかげで、ナナシも足場の上で安定して立っていられる。が、これがもしもまた動き出したら、完全に洗濯機の中に入れられたネズミだ。

「こいつが大人しいうちに、なんとかユリと合流したいな……頼むから生きててくれよ……!」

「アンドロイドはそもそも人間と違って生命体ではないので、生きているわけではありませんよ? ナナシ様?」

「うおっ!?」

 ナナシは横から突然現れたユリに驚いて、その場から飛びのく。必然、狭い足場の上でナナシはバランスを崩し、危うく点検用通路から落ちかける。

 ユリは「おっとっと」とナナシの腕を掴み、なんとかナナシが落ちるのを阻止する。

「大丈夫ですか? ナナシ様? そんなに驚いてどうかしたんですか?」

「そりゃあ驚くだろ!? いるならいるって言ってくれよ!? びっくりするかと思っただろ!?」

「いや、びっくりしてましたよね?」

 ナナシは足場に戻って、ほっと一息吐く。

「あの状況で、よく無事だったな? ユリ?」

「そうですね。わたくしもさすがにスクラップにされるかと思いましたが、スマッシャーを乗り捨てることでなんとか……」

「乗り捨て?」

「ご存知ありませんか? 乗り捨てることで、空中で1度だけジャンプすることができるんですよ。ほら、人間が昔作ったゲームで、緑色の恐竜がよく赤い帽子の男性によく乗り捨てられていたと記録されています」

「なんだそのゲーム……? 面白いのか?」

「はい。世界中にファンがいたそうです」

「昔の人はなにを考えていたのやら」

「ナナシ様、ゲームはしたことがあります? よろしければ今からわたくしとゲームをしてみませんか? 乳〇当てゲームというそうなのですが」

「やらねぇよ! なんだその下品なゲームは!?」

「これもまた昔、流行っていたという記録がございます」

「人間って……」

「やりますか?」

「なんで今やろうと思ったんだよ。やるわけがないだろ」

「ちっ……ナナシ様をえっ〇な気分にさせて、なし崩し的に子作りする作戦失敗……」

「この状況でなんでそんなこと考えられるん……?」

「逆ですよ、ナナシ様。こんな状況だからです」

 ナナシは腕を組み、半眼でユリを見つめる。その目はとても胡散臭いものを見る目であった。

「胡散臭そう」

 口でも言っていた。

「人間に限らず、多くの生命体は命の危険を感じた時こそ、生殖本能が働くと言います。つまり、今ならばナナシ様もその気になるのではないかと!」

「やらないから」

 閑話休題。

「ともかく、今はここから脱出する方法を探そう」

「そうですね。脱出してから、えっ〇しましょうか」

「その話、そんなにしたい?」

「しかし、困りましたね。まさかサンドワームの中に取り込まれてしまうとは」

「スマッシャーがあれば、自由に飛び回れるんだろうが……乗り捨てたってことは、もうスマッシャーはスクラップに……?」

「不明です。しかし、スマッシャーの装甲は岩石よりも遥かに頑丈です。破砕機ですら壊せず、どこかに挟まっている可能性もあります」

「なら、まずはスマッシャーを探しに行くか? 出口を探すにも、足はあったほうがいいよな」

「そうですね。そうしましょう」

「ちなみに、出口に心当たりはあるか?」

「申し訳ありませんが見当もつきません。わたくしは奉仕用アンドロイドですから、保存されているデータの多くは家事全般とえっ〇な技術が大半です」

「いらねぇ……」

 ナナシはげんなりとした顔で肩を落とす。

「サンドワームの記録は、その概要のみ。詳しい図面などは、記録されていません」

「そうか。まあ、仕方ない。とにもかくにも、まずはスマッシャーだな。もしまたこいつが動き出したら、いよいよ死んでしまうからな」

「分かりました。最優先目標はナナシ様の護衛。次にナナシ様との子作り。そして、スマッシャーの捜索。こちらでよろしいでしょうか?」

「よろしいわけがないだろう」

 そんなこんなで1人と1体は、見知らぬ場所の探索を始めた。

◆ ◆ ◆

 点検用通路の奥へ進むナナシとユリ。

「ナナシ様。前方に段差があります」

「見えてるよ」

「ナナシ様。後方にわたしくがおります」

「その報告いらない」

 暗がりを道なりに進んでいると、2人は別の区画へ足を踏み入れる。

 区画の入口には看板があり、「作業員用区画」と書かれていた。

「作業員用……?」

「どうやらサンドワーム内で作業する者のために作られた居住区画のようですね」

 ナナシの疑問に、ユリがすかさず答える。

「住めるのか……? ここに?」

「仕組みは至ってシンプルですよ。遠心力と重力、それから……」

「いい。説明されても、どうせ理解できないから」

 ともかく、どうやらここで安全に過ごすことは可能らしい。

 万が一、再びサンドワームが動き出しても、この場所を一時的なセーフハウスとして利用できる。

 ナナシは安全地帯を見つけられたことに「ほっ」と息を吐いた。

 2人はそのまま作業員用の区画へと進み、なにかめぼしいものがないかと辺りを探索する。

「作業員がここにいたなら、脱出の手がかりになりそうなものがあってもおかしくないと思うんだが……」

 ナナシはそう考えて、近くのドアを開く。中を確認すると、どうやら人が過ごすためのスペースのようだった。畳でいえば、1畳分のスペースしかない。トイレは壁の中に格納されており、なんとか人間が1人寝られる程度。

「おいおい、これが人の住める場所か……?」

 ナナシが生きていた300年前――まさに戦争真っ只中でも、ここまでひどくはなかった。

「いや、あの時代もまあまあひどかったもんだけど……」

 そう考えたら、ユリと一緒に過ごしたシェルターは天国だった。ナナシは今更ながら、「どうして天国から出てきちゃったんだ」と軽く後悔する。

「まあ、後悔しても仕方ないか」

 今は脱出の手がかりを探さなければと、ナナシは早々に切り替えて探索を続ける。

「ナナシ様」

 と、同じく辺りを探索していたユリが、ナナシを呼び止める。

「なにか見つかったか?」

「いえ、センサーに反応あり。近くになにかいます」

「え――」

 この場所は作業員用区画。つまり、人が住んでいた場所。そこで反応があったということは……。

「もしかして、俺以外に生きている人間が?」

 ナナシの表情は途端に明るくなる。もともと、自分以外の生存者を求めて、わざわざ安全なシェルターを飛び出したのだ。

 もしもここで自分以外の生存者と出会えたなら、奇跡としか言いようがない。

 だが、ユリから返ってきたのは無情な言葉だった。

「人間ではありません」

 その言葉にナナシは「そうか……」と肩を落とす。

「人間じゃないならなんだ?」

「アンドロイドです」

「!」

 ナナシはそれを聞いて、すぐに身構える。

 300年前、人類とアンドロイドは戦争をしていた。

 自分の名前を忘れたナナシだったが、自分がその時代を生きていたことは覚えている。

 今でこそユリと仲良く旅をしているナナシであるが、出会った当初はアンドロイドである彼女をとても警戒していた。

 敵味方を区別する方法は、目が光るか、光らないか。

 もしも目が光らないアンドロイドならば、それは戦争時代に製造された人類の敵――。

 自然とナナシの肩に力が入る。

 やがて、2人が見ている暗がりの向こうから金属質の音と機械の駆動音が響いてくる。

 ウィーン、ガシャン。

 ウィーン、ガシャン。

 2度、3度と繰り返し音が聞こえた後、少しずつ暗がりの中からアンドロイドが姿を現す。

 無骨な鉄の塊。左右で別々の脚パーツ。胴体には人間らしい部分がほとんどなく、機械部分がすべて露出し、コード類も無造作に飛び出している有様。

 その胴体から伸びる腕もひどく不格好。左腕はまだ人間らしい形を保っていたが、右腕は完全に機械。まるでショベルカーのアームである。

 やがて、ナナシとユリの前でそのアンドロイドは足を止める。

「「……」」

 ナナシは呼吸を忘れ、ユリも主に倣うように目を丸くして、目の前のアンドロイドを凝視する。

 一瞬、ナナシとユリは警戒を忘れた。

 なぜか。

「あら……こんなところにお客様だなんて、珍しいですわ。今日はいいことがありそうですわね」

 ノイズ混じりのお淑やかな声音。

 ナナシたちの目の前に現れたアンドロイドは、ボディこそ不格好だが、その顔は――妖艶な女性のようで、息を呑むほど美しかったのだ。

 長く美しい黒髪に、微笑をたたえた表情。

 所作のひとつひとつが洗練されており、見た目の不格好さなどもはや気にならない。

 ――美しい。

 見た目ではない。

 雰囲気。

 そのアンドロイドが身にまとうオーラからナナシとユリは、本物の”美”を感じ取っていた。

「あ……ユリ!」

「!」

 正気に戻ったナナシがユリに声をかけると、ユリもハッと我に返って警戒する。

 なにを隠そう、今ナナシたちの目の前にいるアンドロイドの目には――。

「あらあら……元気なお客様ですわ」

 光がないのだから。

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