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死神少女【原稿Ver】 第1話

第1話

死神少女 第1話

俺は金井 ジュン。
日雇い仕事で日々を継ぐ、フリーターだ。

頭は良くねえし、ロクに学校も出なかった。
まあだが働かなきゃ生きてはいけねえってことで、中学を卒業した頃からすぐ働くようになった。

人生に多くは望んじゃいねえ。
健康で生きていられればそれでいい。

正社員になりたいと思うことは無いわけじゃないが、それも大して望んでねえ。

そんな俺の暮らす小さいアパートの一室に――

「あ、どもー」(死神がテーブルにあごを乗せてくつろぎながらテレビを見ている)

ある日、知らない女がくつろいでいた。

「……え、誰」
「あ、良く言われます」
「良く言われるの。君、自己紹介とか普段しないの」
「急に現れるのが私のモットーなので」
「そのモットーは実際忠実に遂行されてるけど。え、マジで誰」
「ふふふ、誰だと思います?」
「え、警察呼んでいい?本当に」
「呼ぶなら呼んでもいいですよー」
「え、怖い。何でこの子、知らない人の家で寛ぎながらそんなに余裕なの」

警察を呼ぶことにした。

頭のおかしい女に絡まれた。なんか、見た目もやばいし。

俺一人で解決するには荷が重過ぎる。
国家権力をふるって、丁重にお引取り願うのが得策だ。

※ ※ ※

「は?」(ジュン)
「だから誰も居ないじゃないですか。お兄さん、ちょっと大丈夫?」(警察)
「……」(死神)

明らかに目の前にやばそうな女が居るのに。
警察はまるで俺しか見えていないように、そう言った。

「とにかく、もう帰りますけど。まあ、本当に不審人物がまた現れたならご連絡ください」(去っていく警察)

※ ※ ※

「……なんなんだ」(ジュン)
「だから呼んでもいいって言ったじゃないですかー」(死神)
「……どういうこと?」
「私ね、あなたにしか姿が見えないんです」
「え?」
「いわゆる、死神ってやつです。私」

※ ※ ※

死神。

彼女が言うことが本当なら、彼女は俺にしか見えない。

そして死神は――

「死の近い場所へやってくるのです」

と、言った。

「……俺がもうすぐ死にそうってこと?」(ジュン)
「さあ、どうでしょうね。どんな形であろうと、私が現れたと言うことは、何かしらの死が近いのです」
「死神だろ、お前。お前が殺すってことか?」
「物騒な。殺すとか、そんなことするわけないじゃないですか!失礼ですね」

そんな物騒な見た目の鎌持ち歩いているくせに何言ってやがる。

「じゃあなんのためにお前らは存在しているんだよ」
「ふふふ、知りたいですか?」

うぜえ。

「私たちは寿命をもらうんです」
「寿命?」
「そうです。死神は寿命と引き換えにどんな願いでも叶える力があるんです」
「へえ……」
「そして私はその願いをかなえた代償にもらった寿命を自分の寿命に加算し、更に生きながらえることができると言うわけです」
「死神のクセに、生きるとか言う概念あるの」
「当たり前じゃないですか。死神を何だと思ってるんですか」
「いや、てっきり死とは無縁の、神的存在なのかと」
「ファンタジー漫画の見すぎですよ。現実はそんな甘くありません」
「りんごとか好き?」
「私たちはりんごしか食べません」
「お前ファンタジー漫画の見すぎだよ」

(少し間をおいて)

「で、早速ですけど何か叶えたい願いありますか?」
「え?」
「見たところ、大した人生送ってなさそうですし」

失礼なヤツだな。

「じゃあ、例えば100億円欲しいって言ったら」
「叶えますよ」
「いくら?」
「寿命73年でどうでしょう」
「死ぬじゃん、俺」

割りにあわねえ。

「馬鹿ですね。あなたの場合、73年死ぬ気で努力しても100億円なんか手に入れられませんよ。むしろお得だと思いますけどね」

……確かにそう言う考えもあるか。

「まあ、いい。叶えたい願いなんか無い」
「え、そうですか。寿命10年くらいで簡単に叶う願いもありますよ?」
「いらん」
「えー。みんな何かしらあるのに」
「自分の命より大切なもんなんかねえよ」
「ふーん……」

※ ※ ※

「え、なに。お前割りとどこにでもついてくるの?」(仕事に向かうジュン)
「死の近い場所に私は居るのです」
「さっきのでわかったろ。俺は取引もしないし、身体も健康。死からは程遠いよ」
「みたいですねえ。なんで私ここに現れたんでしょうね」
「知るか」

構ってられん。
仕事仕事。

※ ※ ※

(一週間くらい共に過ごした二人)

「忙しいんですねえ、ジュンさん」(死神。家でくつろいでる)
「まあな」
「ロクに遊んでもないじゃないですか」
「まあな」
「人生楽しいですか?」
「別に」
「寿命削って、楽しい願いかなえたほうが充実すると思いますけど」
「命より大事な願いなんて俺にはねえって」
「ご立派ですねえ」

(つまんなそうな顔をする死神)

「ていうか死神さんよ、お前マジで誰にも見えてねえのな」
「その呼び方やめてください。かわいくない」
「あ?じゃああ何て呼べばいいんだよ」
「そうですねえ。しーちゃんとかどうですか?」
「やめとくわ」
「いけず!」

※ ※ ※

(また別の日)

「今日はどこ行くんですか?」(死神)
「お前本当にどこにでもついてくるな」
「まあ、それ以外やることないんで」
「実家だよ。俺のアパートから、近いんだ」
「あら、どうしてまた?」
「3ヶ月に1回は顔出してんだよ。親父、一人で寂しいだろうからな」

俺が小さい頃に母は病気で亡くなった。

それ以来、男手一つで一生懸命俺を育ててくれた親父。
そんな親父を家で一人放っておくのはしのびなく。

必ず3ヶ月に一回は帰るようにしていた。

(実家に戻ってきたジュン)

「ただいまー。おーい、親父いるかー?」
「ただいまー」(死神)
「……お前の声は聞こえねえだろ」

あとただいまって何だ。お前はじめてだろうが。

(親父を探すジュン)

「親父?いないのか?」(ジュン)

(床に倒れている親父を発見)

「親父!?」(ジュン)

※ ※ ※

(ベッドの上に仰向けに寝ている親父)

「……迷惑かけたな、ジュン」(親父)

弱々しい声。
いつも力強かった親父からは、想像もできなかった、声。

「なんで、言ってくれなかったんだよ」(ジュン)

少し前から、身体を壊していた。
身体が思うように動かせず、今日も冷蔵庫に行こうとしただけで倒れてしまったらしい。

良く見れば、身体も随分細くなってる。
前回会った時から3ヶ月しか経っていないのに。

「しばらく面倒見にくるよ」(ジュン)
「無理するな。お前も忙しいだろう」(親父)
「無理してんのは親父のほうだろ。遠慮すんじゃねえ」

※ ※ ※

(アパートへの帰り道)

「……親父さん、長くないですね」(死神)
「……見えるのか、寿命が」
「ええ。正確な数字は企業秘密なんで教えられないですけど」
「何かしらの死が近いって、こういうことかよ」
「そうみたいですね」

悲しそうでもなく、特段なんてことでもないような死神の口調が腹立たしかった。

「今こそ取引のお時間じゃないですか?」(死神)
「……」
「親父さんの病気を治して寿命を伸ばす。今ならなんとお買い得!40年でどうでしょう!」

親父は例え健康に生きてもあと40年は生きないだろう。
やっぱり、こいつはとんでもねえ詐欺師だ。まさしく死神だ。
より長く人の命を奪うことしか考えていない。

「いらねえよ」(ジュン)
「大事な親父さんじゃないんですか?」
「大事だよ。でも、その親父が自分より大事に育ててくれたのが俺だ」
「……」
「言ってんだろ。俺の命に変えても叶えたい願いなんて、そうそうねえよ」

※ ※ ※

(連日親父の面倒を見るジュン)

その日から。

仕事が終わればすぐに実家へ戻り、親父の面倒を見た。

親父の身の回りのこと、ご飯の用意や洗濯。身体が動かない親父の身体を拭いてあげたり、ほぼ介護みたいなもんだ。

今まで育ててくれた恩を思えば、このくらいどうってことない。

「迷惑かけるな」(親父)
「気にすんなって」
「いい男になりやがって、全く」
「親父に似たんだよ」

※ ※ ※

(ある日の帰り道)

「ジュンさん」(死神)
「なんだよ」
「ほとんど、休んでないですか?」
「そうだな」
「大丈夫ですか?あの、病気治すとまで行かなくても、少し元気にするくらいなら」
「必要ない」

こいつの力なんか借りなくても。

「大事なのは時間の長さじゃねえ。過ごした中身だよ」

俺が親父を支えてやる。

最後に精いっぱい思いをして、死ぬことが無いように。

※ ※ ※

日に日に、親父の身体は弱っていった。

死神も、もう何も言わない。

取引をもちかけられることもない。

親父はほとんどベッドから出られなくなり、俺はますます介護の時間を増やした。

「本当に……ごめんな」(親父)
「よせよ」
「最後の最後に、お前に迷惑かけちまって……本当に、すまんなあ」
「よせって……」

親父は。

少し、目に涙を浮かべていた。

「覚えてるか、子供の頃」
「なんだ、急に」
「よく、キャッチボールしたよなあ。公園で」
「ああ、そうだったな」
「もう、出来ねえんだろうなあ……。でかくなったお前と、最後に一回くらい、してみたかったよ」
「……」

※ ※ ※

(帰り道)
(ジュンとその後ろを無言で歩く死神)

「おい、死神」(立ち止まり、背中を向けたままのジュン)
「……はい」
「取引だ」
「……」

こいつの力なんて、頼りたくないと思っていた。

でも、こいつの力じゃないと、叶えられない願いがある。

「親父とキャッチボールをさせてくれ。最後に、1回」

大人になってから。
一度もしたことがなかった、キャッチボール。

このまま死に行くのをベッドの上でただ待つだけとなってしまった親父の、最後の願い。

「……どんな医療でも今のお父さんの身体を元気にすることはできません。ましてやキャッチボールなんて」
「……」
「引き換えに、寿命40年はかかります」
「いいよ」
「……」
「何年でもいい、くれてやる」

大事なのは時間じゃなくて。

中身、だから。

※ ※ ※

「不思議なもんだな。急に身体が動くようになるなんてな」(キャッチボールをする親父)
「全くだな」
「お前、昔に比べて球速くなったなあ。驚いたぜ」
「何年前の話してんだよ、あたりめーだろ」

最後の時間。

親父と言葉と球のキャッチボールを繰り返す。

懐かしかった。

まだ小さい頃、親父と二人で暮らしていた頃。

親父の背中に守ってもらっていた、あの頃。

今思えば、幸せだったかもしれない。

何の夢も持たない大人になった今よりも。

あの頃は、夢と希望で、あふれていた。

「なあ、ジュン」(親父)
「なんだよ」
「お前は、健康でいろよ」
「……」
「健康で、長生きして、いい奥さんもらって、楽しく生きろ」
「……そうだな」

そのお願いは、聞けそうにねえや。

ごめんな、親父。

※ ※ ※

気づけば、俺の前から死神は姿を消していた。
もう寿命ももらったし、用無しと言う事だろう。

そして、キャッチボールからしばらく。

親父は死んだ。

最後は、安らかに、眠るように、死んでいった。

満足げな表情をして死んでいった親父を見たら、これでよかったんだと思えた。

「……はあ」(部屋に戻ってきたジュン)

俺も、あと何年で死ぬのかな。

40年もくれてやったんだ。もう長くないだろう。
下手したら、明日にも死ぬかもしれない。

でも、いいか。

叶えたい夢も無い。成し遂げたい願いも無い。

だからこれで――

「いや、まだ生きますよジュンさんは」(死神。急に登場)
「うわっ!?」
「どうもご無沙汰してます」

急に現れて心臓止まるかと思った。むしろ今日で寿命が終わるところだった。

「お、お前いなくなったんじゃなかったのか」
「いや、色々ありましてね」(くつろぎはじめる死神)
「ていうか、さっきのなんだよ。俺はまだ生きるって」
「ああ、それですけど、私ジュンさんの寿命もらってないんで」
「は?」

寿命と引き換えに、願いをかなえるんじゃなかったのかお前は。

「別に、引き換えにする寿命さえあればなんでもいいわけですし」
「え?」
「……私の寿命、使っちゃいました。てへ」
「なんで!?」
「な、なんでって言われても、なんか、そう言う気分になっちゃったんですから!!仕方ないじゃないですか!!」
「……お前、自分の寿命どんだけ使ったんだ」
「……死神が人の願いをかなえるなんて、本来ありえないことなんです。だから、その、800年くらい……」
「そ、そんなに使って大丈夫だったのか?」
「大丈夫じゃないですよ!!私もうあと71年しか生きられません!!」

割と生きるじゃねえか。

「そんなわけで、私の寿命回収の旅はまだまだ続くのです」
「……ありがとうな」
「はい!お礼を言われるほどのことです!本当に自分でもなんでこんなことしたのかわかりません!責任とってくださいね!」

責任ってどうとれと。
俺の残りの寿命全部くれてやればええんか。

「とりあえず、行くところもなくて困るので、もうしばらくここでお世話になります。構いませんよね!」
「い、いいけど……、どのぐらい?」
「うーん、70年くらい?」
「お前、死ぬまで居る気じゃねえか」
「あはは」
「そんなことしてないで、もっと寿命を取引してくれそうなやつのところへ行った方がいいんじゃねえか?」
「まあまあ、大切なのは時間の長さじゃなくて中身ですから」
「あ?」

※ ※ ※

(死神視点でのナレーション)

得た時間の使い道など考えず、ただひたすら寿命を搾取して長生きすることしかなかった私にとって。

彼の寿命の使い方は、全然理解できなかった。

だけど――、何故か。

その彼の姿を尊いと思ったから。

もう少し、彼の生き方を見てみたいと思った。

「そういうわけでよろしくお願いしますね!あ、取引したいなら引き続き受け付けてますので!」
「お前を追い出したい」
「寿命200年いただきます!」
「ふざけんな」

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