死神少女【原稿Ver】 第6話
第6話
「はあー、幸せですねー」(死神)
ポテチを貪り、コーラを飲み、心から穏やかそうな表情で黒髪少女はそう言った。
我が家の死神。
人の寿命を食らうもの。
その名に似つかわしい、黒い翼と、巨大な鎌を引っさげて、その名に全く不釣合いな態度でその少女は日々を謳歌する。
「お前、毎日暇そうだよな」(ジュン)
「ジュンさんは毎日忙しそうですね」(死神)
金井 ジュン。
俺の名前。
日々の生活をフリーターで食いつなぐ、夢も希望もない青年。
「お前がニートだから、その分俺が働いとるのだ」
「ジュンさんもニートになればいいんですよ」
「俺がニートになったら、お前そのポテチとコーラ食えねえぞ」
「働いてくださいジュンさん。毎日。キビキビと。忙しなく」
勝手な奴だな。
「どこか出かけたりしないのか?」
「死の匂いがすれば」
「それ以外でだよ」
「ジュンさんの近くにいることが、今の私のライフワークです」
「友達とかいなさそうだもんな」
「失礼な!友達くらいいます!」
「へー」
「もう死んでますけど」
「うわぁ」
反応に困る答え来た。
「ああ、気にしないでください。そもそも私の周りにいる人間で死んでないほうがおかしいので」
それもそうか。
時折忘れそうになるが、そもそもこいつは死神だ。
人々を死に導く存在。
彼女と知り合って、長生きしている方がおかしい。
まあそう言う意味では、俺は特例中の特例と言える。
「どんなやつだったんだよ、そいつ」
「気になります?」
「そりゃな」
「酷いやつでしたよ。その頃の私は死神駆け出しで、寿命集めに奔走してましてね」
「うん」
「何とかして取引をしたかったんですけど、その人、取引するする言って、私を期待させた挙句、結局取引しないまま死にやがりました。詐欺ですよ、詐欺」
「なんだそりゃ。変な奴だな」
「ええ」
そう言って。
死神は少し笑った。
「本当に、変な人でした」
少しだけ、寂しそうに、笑ったのだ。
※ ※ ※
「君が来てくれて嬉しいよ」(ユウジ)
多分、そんなことを言ったのは彼が初めてだっただろう。
私は死神だ。
死神の私が来てくれて嬉しいなんて言う人間は、よほど頭がおかしいかもしくは――
「どうせ、いつ死んだっていい人生だったんだ」(ユウジ)
その人自身が、よほど死に魅入られているか。
「それはよかったです。さあ、さっさと取引しましょう」(死神)
「うーん、どんな願いがいいかな。ねえ、死神さん。僕の残り寿命だったらどんな願いが叶えられる?」
「さあ?詳しくは企業秘密なんでいえませんが……。まあ、叶えられるのはほどほどのものですよ」
彼の寿命は残り3年しかない。
全部使ったところで、ちょっとした幸運を引き込んだり出来る程度でしょう。
とは言え彼は――
「それでもありがたい。残りの人生、何も楽しいことなんてないに決まってたんだから」
この病室で、今後一生を過ごす。
何も起きない、何も出来ない、何もない、この空間で。
そんな彼にとっての残り3年と言う寿命は、あったところで拷問に等しい苦痛だろう。
であるならば、それを使ってささやかな幸せを享受して死に至る方が、よほど賢いに決まっている。
だから私が来た。
だから私が見えた。
彼は私と取引する資格がある。
「さあ!ではどうします?早く取引しましょうよー」
「うーん、ちょっと待って。せっかくだからのんびり考えさせてよ」
「ちぇー。ま、いいですけど。ただ、早くしないと、ロクな願い叶わなくなりますよー」
「はいはい」
※ ※ ※
少年の名前はユウジと言った。
その日から、私はユウジが取引するのを待ちながら、彼の病室で過ごすことが増えた。
「なんですか、それ」(死神)
「折り紙だよ。知らないの?」
「紙切れ折って何が楽しいんですかねー」
「……」(鶴を折る)
「おぉ!!なんか凄いの出来た!!」
「……いる?」
「欲しいです!!家宝にします!」
「大げさだなあ」
※ ※ ※
「ねー、取引内容決まりましたー?」
「んー、まだだなあ」
「早くしてくださいよー」
「まあまあ」
「何食べてるんですか?それ」
「ポテトチップスだよ」
「身体に悪そうですね。病人がそんなもの食べていいんですか?」
「いいんだよ。どうせ、助からないし」
「ま、それもそうですね」(一枚パクる死神)
「あっ」
「うぉ!!美味しい!!なんですか、これ!!」
「だからポテトチップスだよ」
※ ※ ※
「ねえ、死神さん。外の世界はどんなだい?」
「どーも、こーも、別になんてことないですよ」
「その何てことない世界を知りたいんだよ」
「ふーん」
別段、面白いものなんてないですけどね。
私は窓の外から翼を広げて飛び立つと、それとなく外を眺めて病室へ戻る。
「えっとですね」(死神)
「うん」
「鳥が飛んでました」
「どんな鳥?」
「えーっと……、黒い?」
「それカラスじゃない?」
「多分そうです」
「はは。なんてことないなあ」
「だから言ったじゃないですか」
なんてことない、そう言いながら。
彼は随分おかしそうに笑った。
笑いと言うのは伝播するもので、そんな彼を見て私も。
「はは。おかしいですね」
つい、笑ってしまった。
※ ※ ※
「……ねえ、ユウジさん」
「……なんだい」
ベッドの上で仰向けに寝ている彼。
彼は顔だけこちらに向けると、小さな声で返答した。
「……もう随分経ちますけど、まだ願い決まらないんですか?」
「……あぁ、そうだった、ね」
彼の身体は日に日に弱っていく。
当然だ。
彼の寿命は元々3年しかない。
尽きかけた命なのだ。
その3年の命も、もう既に半分近く使ってしまっている。
「……ロクな願い、叶えられないですよ。これ以上寿命を減らしたら」
「困ったなあ」
「……それに私も取引してもらえる寿命が少ないのでは、旨みがありません」
「それは、もっと困ったな」
このまま彼の側にいても、私のメリットはないだろう。
さっさと飛び立って、別の死の匂いを探った方が懸命だ。
「困ったなあ……」(ユウジ)
「そんな困った困った言うのなら、早く願いを――」
「だって、僕の願いはもう、とっくに叶ってしまっているからさ」
「……」
「ねえ、死神さん。もしかして、もうそろそろ行ってしまうのかい?」
「……そのつもりです」
「そうだよね。僕の側にいても大して寿命が回収できる見込みがないし、いてもしょうがないものね」
「……」
「じゃあ、願い決まったよ。死神さん」
「……なんですか」
少しだけ、彼は息を吸う。
息を吸って、そして、言った。
「僕の、友達に、なってくれないかな?」
随分、無謀な、願いを。
「それは叶えられません」
「……」(ユウジ)
「残念ですけど、あなたの寿命を1秒たりとも使えません」
「……」
「だって、とっくに――」
友達、ですからね。私たち。
※ ※ ※
「ねえ、ジュンさん」(死神)
「なんだよ」
「そう言えば、ジュンさんも友達ですから、私の友達は2人ですね」
「ああ?俺も友達なのか?」
「違うんですか?」
「んー、まあ。似たようなもんか」
「ちゃんと友達ってことにしてください。じゃないと私、寂しいです」
「何だお前。死神にも寂しいとかあるのか」
「ありますよ。残念ながらね」
死神は窓の外を眺めながらそう言った。
その表情は、わからない。
「あ、カラスが飛んでますよ。ジュンさん」
「カラスなんざ、いつだって飛んでるだろうが」
「そうですね。いつだって飛んでます。いつだって飛んでるから、いいんですよ」
「よくわからんな」
「ふふ。面白いですね」
「?」
何が面白いのかサッパリわからんが、死神はクスクスと笑い出す。
笑いってのは伝播するもので、そんな姿を見ていて俺もつい――
「はは。何笑ってんだよ」
笑ってしまうのだった。


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