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死神少女【原稿Ver】 第7話

第7話

(祭りの背景。ジュン視点)

「今日も町は賑わってますねえ」(死神)
「……」
「あ、ジュンさん。あそこでたこ焼き売ってますよ。買ってください」
「……」
「あー、良い匂いだなー。美味しそうだなー」
「……」
「ちょっと、ジュンさん。無視しないでもらえますか」
「だーかーらー!街中で話しかけるなって!」(ジュン)
「ママー。あの人急に叫びだしたー」(子供)
「コラ、見ちゃいけません」(ママ)
「怖いですねえ。最近の若者は」(死神)
「お前のせいだお前の!!」(ジュン)
「ママー」(泣く子供)
「やあねえ。ナオくん、早く行きましょ」
「嫌ですねえ」(死神)
「うがああああ!」(ジュン)

俺は金井ジュン。
純粋な子供に泣かれ、その親に冷たい視線を送られていることを除けば、至極一般的なフリーター。

「うわ、急に奇声を上げ始めましたよこの人」(死神)

そしてこいつは死神。
一部の人間を除いて、こいつの姿は俺以外に見えていない。

「……勘弁してくれ。何度も言うが、人の居るところでは声をかけるな」(小さい声)
「だからイヤホンでもしとけばいいじゃないですか。勝手にブルートゥース通話か何かと勘違いしてくれますよ」(死神)
「歩きながらイヤホンしてたら、柄が悪く見られるだろ」
「街中で急に叫ぶ変質者の方がヤバイ見られ方してると思いますけど」

確かに。

※ ※ ※

「おっ。パチンコ屋だ」(死神)
「ん?」

前方のパチンコ屋を見て、目をキラキラさせる死神。

「何お前。パチンコとかやるの」(ジュン)

これ以上変質者扱いされるのはごめんなので、仕方なく適当に鞄に入ってた使っていないイヤホンを耳につけながら尋ねる。

「やるわけないじゃないですか。アホですか」(死神)

腹立つわ、こいつ。

「ジュンさんに会う前は、結構この店で捕まえてたんですよ。取引相手」(死神)
「へえ」

取引。
死神がいう取引と言うのは、寿命と引き換えに願いをかなえることをいう。

全ての人間が取引できるわけではない。
彼女曰く、『何かしらの死に近づいた』人間にしか、死神の姿は見えないし、取引も出来ない。

「まあ、こういっちゃ何ですけど、簡単に取引に応じてくれる人が多いんですよね。このお店で捕まえた人は」(死神)

言いながら、死神は何かに気付いたように立ち止まると、くんくんと匂いをかぎ始める。

「……見つけました」(死神)
「えっ」
「死の匂いです。ほら、あそこの男性」

指差した先には、丁度今パチンコ屋から出てきた一人の男性。

がっくりと肩を落として、フラフラと歩き去っていく。

「追いかけましょう」(死神)
「いってらっしゃい」
「何言ってんですか。ジュンさんも来るんですよ」
「はあ!?」
「たまにはいいじゃないですか。死神2号ってことで」
「俺は人間だっての!」

※ ※ ※

「あぁ……」(男)

終わった。
今日勝てれば、何とか明後日の返済に間に合うかと思ったけど、有り金の殆どを失ってしまった。

財布に残ったのは2千円ぽっち。
これでどう生きていけばいいってんだ。

「あーあ……」

夜の公園。
ブランコに揺られながら、考える。

もう生きていてもロクなことないし、いっそ明日電車に飛び込んで死んじまおうか。
仕事もないし、住むところもないし、この2千円も今日漫画喫茶か何かに泊まったらその時点で消し飛ぶ。

「だいじょーぶ!まだ死ぬには早いです!」(死神。逆さまに登場)
「うわぁぁああ!?」
「どーも!私、死神のしーちゃんです!そして彼は助手のジュンさん!」(死神)
「あ、どうも……」(ジュン)
「今回は何かいつもと違う感じで登場してみました!どうですかね!?」
「……」(男。ブランコに座ったまま気絶)
「あれー?もしもしー?」
「……気絶してるぞ」(ジュン)
「あらー」

※ ※ ※

(ジュン視点)

「寿命と引き換えに願いを叶えてくれるって?」(男)

意識を取り戻した男に死神が一通りいつもの如く、自分が死神だと信じさせる一連の流れをやった後、彼女は早速男に取引を持ちかけた。

「はい。叶えたい願いありますよね?」(死神)
「おうよ。じゃあよ、俺をパチンコ勝てる身体にしてくれよ!できるか!?」
「いいですよー。寿命10年くらい貰いますけど大丈夫ですか?」
「そんだけでいいのかよ!安いもんだぜ!」(男)
「はーい。それじゃ取引成立でーす」(死神)

死神は流れ作業的にそう言って、一回だけ翼をバサッとさせる。

「……ん?もういいのか?」(男)
「はい。これであなたはパチンコ勝てますよ」
「ほ、ほんとか?何かあっさりすぎて……」
「ま、嘘だと思うなら、明日試してみてください」
「お、おう……。よし!今日は野宿だな!この2000円を使うわけにはいかねえ!」

※ ※ ※

「……めっちゃあっさりだな」(ジュン)
「だから言ったじゃないですか。簡単なんですよ、あのお店から出てくる人」(死神)

たかがパチンコを勝ちたいが為に寿命10年も使うなんて、俺には信じられない。

「別にあのお店行っている人が皆そうだってわけじゃないですけどね。ただあのお店に行っている人で私の姿が見えるってことは、もうそれだけ切羽詰ってるんですよ。これから先の長い人生より、目の前のお金。そう言う人が多いですね」
「ふーん……。でもまあ死神のお前からしたら10年ぽっちの契約一本じゃ、ちょっと物足りないんじゃないのか?」
「いえ。十分です」(死神)

「十分なんですよ、ジュンさん」(死神。ニヤッと笑って)

※ ※ ※

1週間後――。

「お、おい!どうなってんだよ!」(男)

死神は再び男の前に現れていた。
そして何か知らんが、俺も付き添いで一緒にいる。

「この5日間で40万くらい勝ったからよ!めっちゃ豪遊したんだよ!どうせまた勝てるからって思ってさ……。そしたらお前、今日ボロ負けしちまったじゃねえか!話が違うぞ!」(男)
「んー、契約の効果がそろそろ切れちゃったんですかねえ?」(死神)
「かねえ?じゃねえよ!どうしてくれんだよ!」
「うーん、まあ40万も一時勝てたからいいじゃないですか。その分、豪遊できたわけですし」
「ダメだ!このままじゃ俺また生活が出来ねえ!おい、取引だ!また俺を勝てるようにしろ!」
「いいんですかー?」
「おう!10年で5日間だったから……、5年!5年寿命使え!」(男)
「はいはい」(死神)

死神との契約を終えると男は再び去っていく。
……またもあっさりと寿命を。

だが、今回は期限付きだってことを理解した上での契約だ。
さすがにこれで……。

「いや、きっとまた呼びますよ。私のこと」(死神)
「さすがにどんな馬鹿でもそこまではしないだろ……。寿命を使ってんだぞ?二度と戻ってこないんだぞ?」
「さて。どうでしょうかね?」

※ ※ ※

2週間後――。

「死神。契約だ。1年でいい。少し勝たせてくれ」(男)
「はーい」

1ヶ月後――

「あーあ。金なくなっちまった。おい、少しだけ寿命使ってよ。また勝たせてくれよ」
「はいはーい」

※ ※ ※

2ヵ月後――

「おーい、死神いるんだろ」

いつもの公園。
ブランコに乗りながら、男が呼びかける。

「お呼びですかー?」(死神)

その声にこたえて、彼女は陽気な声で翼をはためかせながら現れる。

「また金なくなっちまってよ。また寿命使ってくれよ。まだ結構残ってるだろ?」(男)
「あー、そうですねー」(死神)

「残念ですけど、もう取引は無理ですね」(死神)
「はっ!?」
「それじゃ、私はこれで」(死神)
「お、おい!ちょっと待ってくれよ!お、俺の寿命、もう残ってないのか!?もう、俺死ぬのか!?」
「さて?寿命に関する詳しい話は企業秘密なんで言えません」
「そ、そんな……」
「ま、せめて後悔ないように生きてください。パチンコで勝った負けただけで即物的に生きていても、随分虚しいでしょ?他にも楽しいこといっぱいありますよ」

※ ※ ※

「……」(ジュン)
「ね、言ったでしょ。ジュンさん」
「……あいつ、本当に」
「死ぬしかないくらい、自分の財布の中身を使い果たしてしまうような人間が、死ぬしかないくらいまで寿命を使い切ってしまわないわけないじゃないですか。ましてや、残り寿命なんて目に見えないのに」
「……」

死神が去った後、男はうなだれたまま動かない。
自業自得とは言え……、ちょっと可哀想だ。

「ま、この後の人生どう生きるかは彼次第です。このまま死を選ぶもよし。思いなおして、もう少しまともな人生を歩むもよしです」
「……ん?」(ジュン)
「なんですか。変な顔して」
「……お前さ」
「……はい」
「本当は寿命とってないだろ」
「ギクッ」
「……やっぱり」

残り寿命が空っぽの人間に対して死を『選ぶ』とか、人生を『歩む』なんて言い回しはしない。

「……べ、別に一度も私は寿命がないから取引できないとは言ってませんし」
「どういう風の吹き回しだよ」
「そもそもたった5日間パチンコで勝つ程度の願いで10年も寿命は使いません。あの男が私に持ちかけたのは『パチンコで勝てるようになる身体』です」
「そうだったな」
「ですからこの先のパチンコの『生涯収支』が+になるようにしてあげました。……まあ生涯収支なんで勝ったり負けたりです。トータルで浮く計算です。……1円かもですけど」
「……じゃあ途中でちょいちょい取引してたのは?」
「取引したふりです。負けが込めばそろそろ勝つと思ってましたし。契約的に」
「お前なあ」

全く。
ほんとーにこいつは。

「いいじゃないですか。私は即物的に生きることの虚しさを説いてあげたのです。ショック療法って奴です」

――死神のくせに、全然死神らしくない。

でも確かに。
この一件で彼はこれ以上パチンコを打つ気にはならないだろう。
たまに楽しむくらいならいいが……、少なくとも自分が生きるための財産を失ってしまうほどには。
だって彼は実際に、自分が生きるための寿命を使い込んでしまうと言う体験をしたわけだからな。

「あ。彼が自暴自棄になって犯罪しそうになったら後はよろしくです」(死神)
「ふざけんなてめえ」(ジュン)

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